ver.021
「個室に入って、そしたら、背後から物音がしたんだ。なんだ? と思って振り返ったら、あの足があって、引きずり込まれたんだ。で、気が付いたら、ここにいた」
恐る恐るマコを叩き起こすと、そう答えた。ってことは、トイレから出てきた時には、既に入れ替わっていたのか……。でも、あのトイレに出てきたミナミモドキは、上手く喋ることは出来なかった。あれは、私をだますためか? 偽物はまともに言葉を話せないと、私に深層心理の段階で納得させるため? 用意周到過ぎてなんか拍手したくなった。
タコを、撃破することが出来た。ミナミが最後に奥義を決めてくれたおかげで、木端微塵に吹き飛んで、だ。ミナミは、意識が混濁するなか、【カイフク】がなんとか間に合い、元通りになった。ちなみに、マコが本物だと判別するために、ミナミのスキルを放った。ダメージを負わなかったから、本物だと断定した。
「ミナミ、もう大丈夫なの?」
「はい、特に違和感はありません」
一階の私のように、体から大量の血を流し、ところどころの肉片が無くなっていたミナミだったけど、【カイフク】の性能は凄まじく、元通りに治ってしまった。
「最後はありがとうね。あそこで私が捕まっちゃったから、もう駄目だと思った」ミスったことは、伏せておこう。
「いえ、セセラギさんが、タコの注意を引いてくださったので、私も落ち着いてスキルを使用することが出来ました。私一人の活躍によって倒したのではありません」
いえいえ私が私が、と二人で成果の押し合いをしていると、マコがつまらなそうに口を尖らせた。
「あーあ、いつの間にか仲良くなっちゃったさ、俺も一緒に闘いたかったよ」
「あんたが初っ端から連れ去られたおかげで私達がどんだけ苦しんだか……。なのに、その言い方は何?」
「だって無理でしょ。最中に敵が来るのって」
「汚いキモイ。ほら、ミナミが引いてる」
ミナミはマコから離れた。
「うわ、今の無し、引かないでください! これは男にとっては絶対に消せない隙で……。ってか、それよりも二人とももっと早く歩いてよ。これ以上ここにいたくない」
「そうだね、多分本体を倒しているから、もうあの観覧車に入れると思うけど。……何故観覧車なの? しかも、また上に上がるんでしょ? つーか、私は家に帰るために頑張っているのに、どんどん逆へ向かってる」
「仕方ないじゃん、他に道は無いんだし」
マコは当たり前のように言う。それは、間違ってはいない。触手から逃げている時も、この遊園地を観察していたけど、階下に向かうべき道はどこにも無かった。アトラクションを全て見て回れば、もしかしたら何かあるかもしれないけど、骨折り損になりそうで、諦めた。他の二人も、探したくは無いみたいで、必然的に、選択肢は観覧車に絞られた。
一応、一階のようにまだ残党が残っているかもしれないので、辺りを警戒しながら観覧車へ向かった。
ミナミは速足だった。マコが近くに居るから、私の手を繋ごうとはしないけど、何故か、私の近くに寄り添うように近寄ってくる。若干鬱陶しいと感じながらも特に何も言わなかった。
観覧車にたどり着いた。
「一階の要領でいくと、ミナミがこのゲートに触れば、コイツは消える」
ミナミは頷いて、ゲートに手をかざした。すると、そこから波紋が広がり、ゲートの妨げとなっていた板は一瞬にして消えてしまった。
それに合わせて、観覧車全体に、電気が灯る。ギシギシと音を立てて、観覧車は廻り始めた。
「入ろう」
入場ゲートがあり、その先に、ゴンドラがあった。止まっている。だけど、上を見ると、廻っているはずなのに、私達の前に置かれているゴンドラは、私達が入るのを待っているかのように、動いてはいない。
中は六人乗りで、私とミナミで隣、向かいにマコが一人で座った。
マコが、席にお尻をつけた瞬間、ゴンドラの扉はあきらかに手動で閉めるタイプなのに、自動的に閉まった。そして動き始めた。微かに揺れた後、浮遊感が私の体を包み込んでいる。
「これ、一周するだけ、っていうオチは嫌だよ」
不安に駆られてそう口にすると、マコが外を眺めながら答えた。
「違うと思う。多分、一番上に到達すると、そこで降りる場所があるんじゃない。観覧車というよりは、ロープウェイに近いかも。それにしても、上にたどり着くまで、何分かかるんだろ。たっけー」
「遊園地の色……凄い配色ですね」
ミナミの言う通り、私達がさっきまで彷徨っていた遊園地が見渡せたけど、色が凄い。原色の入ったペンキを巻き散らかしたかのように、統一感が無かった。
その光が、壁に反射している。
この観覧車で上まで行けば、壁を乗り越えて、その外が見えるんだと期待していたけど、それは打ち砕かれた。だって、壁は私の気持ちが萎えるほど高いだもの。無限に伸びているのかもしれない。
十分もすると、観覧車はちょうど中間の辺りに差し掛かったけど、壁の頂上は一向に見えなかった。
この光景を目の当たりにしながら、ぼんやりと考える。
――私が居た小学校が、元の世界から壁で乖離されたのかと思っていたけど、どうやら違うみたい。
この壁の向こうに元の世界が広がっているというより、私達は別の世界に飛ばされてしまったと仮定するほうが妥当な気がしてきた。特に理由は無いけど、ってか先ほどまでのモンスター達、それとこの遊園地を見るからに、これが元の世界と同一ってほうが、おかしい。そう考えると、学校に二階にこの世界が存在しているよりは、納得が出来る気がする。その方法? 知るか。
窓から、豆粒のような大きさになったアトラクションを眺めていると、突然、マコのケータイが鳴りだした。
「え? 何?」マコは動揺しながらも、ケータイを取り出して画面を開くと、そこにはレベルアップの文字が表示されていた。
レベルアップいたしました。
【絶対領域アフター】を習得いたしました。
奥義、【ボッコボコに】三十九×無限の音【してやんよ】を習得いたしました。
マコは無言でケータイの画面を閉じた。私はそれを強引にひったくると、画面を開く。しばし沈黙の後、私は勇気を出して、口を開いた。「スキル名に突っ込むのは、……置いといて、まずは確認ね。なんで、今、このタイミングで新しいスキルを覚えたの?」
「ステージクリアするごとに、追加でボーナス経験値が入る仕様なんじゃない、かな? いや、俺はよく知らないけど、そういうゲームって多いじゃん。ねーちゃんもわかるでしょ」
「うん、そうだね。ってことは、もう次のステージにつくの?」
中間を超えたけど、まだまだ頂上には距離がある。
「だと思うけど……。あの、ミナミさん、そんなに見ないでください。スキルの名前、そんなにおかしいですか?」
ミナミは私が持つマコのケータイを眺めていた。
「あの、その名前は……、あの本の名前ですよね?」
そう問うと、マコはポカンと馬鹿みたいに口を開けた。
「え、……あ、そうです。あの、元首相の人が昔に出した本だった気がする。まぁ、この名前になったのは、多分、俺があの本を読んだからかも」
【絶対領域アフター】
【ボッコボコに】三十九×無限の音【してやんよ】
「後者は、疎い私でも、わかるから触れるのは辞めて、この『ぜったいりょういきアフター』が、本なの?」
「ジ・アフター」
マコは静かにそう言った。
ん?
「……はぁ? ごめん、もっかい言って」
「だから、ジ・アフター。その【絶対領域】を【ジ】と読むんだよ」隣で、ミナミもコクンと頷いた。
「無理でしょ」
「【閃光】に言われたくないね。うそ、ごめん、俺も人のこと言えません、はい。で、その本を昔一度読んだことあるんだけど、理由は書いて無かったな。ねーちゃんも、有野間元総理大臣くらい知っているでしょ?」
「あぁ、あの最後が最悪だった、って言われてた人?」
――途端、ミナミとマコが目の色を変えて私に迫ってきた。
「何言ってんだっ!」「どういう意味ですかッ!」
同時に声を上げる。私は気押されながらも、「だって、あの『防衛参加運動』は正直ありえないでしょ。二十歳になったら強制的に訓練を受けるだなんて、ありえないじゃん」
「それが凄いんだよ!」
唐突に、マコはペラペラと有野間元総理大臣について語り出した。政治関係に全く興味の無い私は、初めて聞くような話ばかりで、ダルイと思いながらも耳を傾けてしまった。
有野間元総理大臣、本名は、有野間強と言う。少数の小さな新政党をかかげた議員のはずだったのに、有野間強は階段を駆け上るように勢力を強めていた。
有野間強が首相になる前に、与党、野党が歴史的な変わった。増税は絶対にしないという信念で捥ぎ取った政権であったが、速攻裏切ったのはご愛嬌。更に、首相となっていた人間は、なんと隣国から派遣されたスパイで、我が国を疲弊させることを念頭に、活動を行っていた。出来るはずもないのに夢みたいな政策を打ち立てては、それらを全て途中で諦めたり、無駄を削減すると言いつつ、どさくさに紛れて新技術への投資を削減させて、世界で最先端をひた走っていた技術は潰してしまったりとファンタジーの世界のような悪行を成功させていた。終いに、クロス・テクノロジィなどとわけのわっかんない言葉で当時最先端を誇っていた技術を横流してしまい、人材と資金の面で圧倒的に劣る我が国は、あっという間に落ちぶれてしまった。
そんなことが続けば当然問題が生まれてくる。国が、軋む音を立てて傾いて、やっとマスコミや自身の与党からも批判の言葉が現れた……というより許された。当初高い水準を誇った支持率はまさかの二十パーセントを切り、国民の誰もが自身の国の首相を敵と見做していた。が、それでもその首相はのらりくらりと言葉を交わして首相の座を頑なに守ったのだった。数年も、批判や野次や暴言やその他色々の槍を全身に受け続け、……やっとのことで、内閣総理大臣の座から、引きずり降ろされた。最後っ屁に、解散を宣言して……。
「それは、そのスパイ首相も悪いと思うけどさ、私達を含めた国民が無関心だったから、国が壊れてから声をあげたんじゃないの」
「それもあると思います。しかし、その時はマスコミはお金で圧力をかけ、ネットには多数の工作員を放ち、彼に対して批判的な意見を述べる雰囲気はあまり作られませんでした」
ちなみに、これは後になって、ネットで流されたんだけど、首相を辞めた後、政界からいつの間にかいなくなり、今は隣国で優雅に暮らしているんだとか。
それを知った国民は、……優しい性格なのか、それとも自分達が馬鹿にされたとイマイチ理解出来なかったのかは知らないけど、暴動などは何もしなかった。
でも、唯一の反撃として、そのダメダメ首相の影で、密かに勢力を強めていた政党『絶対党』の有野間強に白羽の矢を打ち込んだのだった。歴史的な大勝で、有野間強は一気に首相へ到達した。
「有野間首相くらい、私だって少しは知ってるよ。やることなすこと全部上手く行くし」
「一種の超能力かもしれない」マコは意味ありげに言った。「未来予知を使えないと、あんなの出来ないって。俺も後になって調べたけど、やっぱりすごいよ」
マコの言う通り、就任してから、有野間強の活躍は凄まじかった。就任してすぐに、偶然、新資源の技術が成功したことを追い風にして、国民に期待を抱かせると、それを一切裏切らずに、躍進した。スライムのようにぐちゃぐちゃになっていた財源を立て直し、世界の国々と良好な関係を作り出し(最初は警戒されていた隣国も何故か仲良くなった)、次々に政策を掲げては、全てをこなし、国民の評価は鰻登りだったらしい。私が幼少の頃、知り合いや家族がテレビを見ながら「有野間大臣は凄いッ」と口を揃えて言っていた気がする。
「でもねー、あれはやっぱりダメだったって」
「発表された時は、でしょ。ねーちゃん、あれはね、国の未来をしっかりと見据えた末に生み出されたんだ」
マコは熱を込めて言った。ミナミも、力強く頷いている。
『防衛参加運動』
という新たな政策が発表された時が、ヤバかった。国が揺れてしまった。
何故なら、国民が一丸となって団結し、反対したからだ。
理由は超簡単。だって、その内容が形や名前は違えど、過去、私達の国が煮え湯を一気飲みした、――戦争を思い出させたからだ。二十歳になったら男女は指定の学校へ強制的に入学し、そこで二年間の訓練を中心とした生活を送る。任期六年目にこの政策を掲げた時には、全国に校舎を建てていた準備の要れようだった。
左右、
理想現実
と関係無く、この政策をぶっ壊せと意見が一致していた。他の中立的な意見を持つ凡人達も、――特に二十歳以下を中心に反対運動を始めた。ここまで担ぎ上げてきた人気と期待が裏切られたという精神によって、全て敵となって身を翻して有野間強が率いる政党にまで攻撃を始めた。これに野党は便乗して、マスコミに大臣は字が読めないや、年下の女性が好きや、通うのは庶民の生活とはかけ離れた料亭だとか、とくだらない問題で鬼の首を獲ったかのように報道させた。
それでも、有野間強は諦めなかった。全放送局のゴールデンタイムを買い取ると、その時間に、生放送で『防衛参加運動』について力説をした。この政策が己の悲願であり、これが今、再び這い上がろうとする我が国において、活性を促すだろう。いいか、あまり頭の悪い勘違いをしてはならない。これは、闘いを始める準備ではない。私達、国民が、この国を更なる繁栄へと導くため、それだけのために、私は人生をかけてきた、とかなんとか言って。
――でも、こんな言葉で、国民の熱が収まるはずがない。ネットで実況していた意見では、暴言に近い野次が繰り返され、その合間に、有野間強に幻滅したという言葉が弾んでいた。
が、『防衛参加運動』の詳細が明かされると、それらは急速に消えて行った。
まず、二十歳から二年間過ごすと言っても、もちろん強制だけど、自由は消えていない。各々の学校は近未来的な校舎で、付近に住んでいる人はそのまま通えて、近くに無い人は、寮へ住むことになるけど、それがまた設備が整っていた。一応訓練は行うけど、毎日鬼軍曹にしごかれて……なんて時代錯誤もいいところで、主な内容は災害が起きた場合での備えや、日常的な運動不足を解消するためのモノで、全て実用的で自身の生活に繋がるレベルだった。更に、その二年間のうちに大学に劣らない専門的な勉強を学ぶことも可能だった。就職活動においても、その当時は、特にやりたいことも夢も持たず、皆が大学に行くから自分も行こう……という駄目人間が多く、それが企業の求める優秀な学生と乖離し、就職を更に困難にしていた。が、その学校では、就職への実用的な勉強を学べた。今まで、こんなの働く上で意味あんのかよ……という科目は一切なく、将来、企業に入った時、自然と行動を起こせるようにと、企業から社員を多数呼び、企業が求める仕事を学ばせた。
それに、学費は、教科書代以外は、無料だった。
この放送をきっかけに、今まで反対意見一色で染まっていた国民は、大きく揺れ始めた。有野間強はその後も、テレビ番組に多数出席し、同じように意見を述べた。昔、バスケットボールのコーチになりたかったけど、この国の未来を見据えたところで、明るい未来が見えない。それを打破するために必要なことを考えた結果、若い力が必要だと悟った。地盤を強力に固めることによって、後に育つものを支えることが可能だと、有野間強は言った。
やがて、『防衛参加運動』に対する反対意見は声を潜めて行った。最後まで声を上げていたのは、戦争反対を唱える団体で、それは後に、野党が後ろで糸を引いていたことがわかり、楽々と、崩壊していった。
そして、二十歳以上の成人による、国民投票が行われた。
この時になって、有野間強は『防衛参加運動』をただ闇雲に妄信するなと言放つ。
「……迷え」私は思い出し、勝手に言っていた。
「うん、確か、その言葉が流行語大賞になった気がする」
有野間強は、最後の最後で、そう言葉を放った。己の生涯をかけた政策を真っ向から否定するような言葉で、国民は困惑していた。
「確かに、この政策は素晴らしい。これによって、国民が潤うことは間違えない。だが、それを妄信的に信じてはならない。迷え、そして悩み、これが己にとって、本当に幸福かを、自分に問いただせ。それによって生まれた答えをもとに、投票をしてもらいたい。これは、私の最も尊敬する人物が唱えていた言葉だ」
マコが、目を瞑り、暗記していた言葉を、すらすらと言ってのけた。自分に酔っている様子がちょっとキモくて、鳥肌が立った。
ちなみに、
結果は二十歳以上の成人の投票率が、八十七%
そのうちの割合で、
賛成……六十四%
反対……二十%
その他……十六%
――となった。
これによって、二十歳になった場合、二年間の防衛参加運動の義務が課せられることになった。だが、有野間強が放った言葉は後々まで強い余波を生み、その責任を取って、辞職してしまった。噂だと、何かのインタビューで、「貧乳大好き」と言ってしまい、それも仇になっとか。
それ以降、有野間強がテレビの前に現れることは無くなる。
その後、防衛参加運動が出来てから、それを境になるほど、人間の質が変わった。専門学校や短期大学がこれに上手く乗り、二年間専門的な知識を学び、更に防衛参加運動でそれを研ぎ澄ませるといった具合に、技術や知識に拍がついた。大学は、今までの就職のために通うというスタンスが崩れ、本来の大学における、その更なる研究を行う場所へと変化していった。
「でもさー、二年間はやっぱめんどいよ。勉強できるっていっても、運動は強制らしいし、昔みたいな制度が私には絶対合う。あと、それなら勉強せずに、そのまま防衛運動したほうがいいじゃん」
「実際、そういう人はいますよ。不登校の人や、ニートのような方は、変に動かず、その学校へ向かうみたいです。無料ですから」
「ミナミも詳しいの?」
「はい。あと二年で行きますから、概要だけでも知っておこうと思いまして、調べているんです。あ、そういえば、今日ですよね、あの訓練」ミナミはハキハキと言う。
「訓練? ん、なんの?」
「全世界同時防衛訓練ですよ。有野間元大臣が各国を巡って、提唱したらしいんです。平和を願って行われるらしいです。確か、今日だったと思うんですけど……、セセラギさん、ニュースとか見ません?」
ミナミが心配そうに聞いてきた。見下したというよりは、本当に心配しているようで、すうっと胸が寂しくなる。必死に、朝のニュースを思い出すと、そういえば、そんな感じの放送を、チラッと流していたような気がする。
「あ、やってた。頭の悪そうなコメンテーターが、恐いですね、平和の祭典なのに、武器がいるだなんて、と言っていた、言っていた」
防衛参加運動の次は、世界を巻き込んだ、平和の祭典。今度は一体何をたくらんでいるんだろう。
「久しぶりに、有野間強の名前がテレビが出たから、街も、元気になりましたし……」
「え、なんで?」
「有野間強さんの実家、すぐ近所にあるんですよ。知りませんでした?」
「あ、だから、昔、選挙のポスターがあちこちに張ってあったのか……」ん、ミナミも、私と同じ街に住んでいるの?
やっぱり、ミナミは私を知っているし、近くに住んでも居る……。新たな情報を手に入れた、というよりは、手に入れさせられた。
今は、いいか。後で、本気で問い詰める時があると思うから、その時に聞こう。
有野間強のことでやけに盛り上がった私達だったけど、結構時間を経過していたみたい。もうゴンドラは頂上部へ近づこうとしていた。
「まぁ、マコがその本の名前を使った理由がわかったよ」
「俺はねーちゃんと違って、この国、いや、この星について真剣に調べているから。有野間強は、とても興味深い人間なんだよ」
何、その言い方は? 星という単語が突然飛び出してきて、私の胸が揺れた。ドキッと音がなる。マコの顔を見ると、マコの内側から、何か得体の知れない声が、聞こえたような気がしたからだ。
その時、ゴンドラが大きく揺れた。
一瞬力を込めたけど、すぐに解いた。もうすぐ止まるのかな、と楽観的に考えていると、ゴンドラは、更に震え始める。
いや、違う。ブランコのように、振れ始めた。
「ちょ、何これ」
「知らないって」
「いやああ」
ゴンドラは、もうほとんど回転していた。私達は必死にしがみつき、内部で回転しないように力を込めていた。
「あッ!」
マコが声を上げた。真上を見ている。
「今度は何よ!」
「ね、ねーちゃん、上」
言われて見上げると、天井があるけど……その横にある窓から外を眺めると、空が……聳えていた。
まるで壁のように……。
そこへ、このゴンドラは吸い込まれるように近づいている。
違う、落下している。
「まち? きゃあああああ」
ミナミが悲鳴を上げながらも声を上げた。「ま、まちです、ああれは」
目を細めてじっと眺めると、その壁には、細かな凹凸があることに気づいた。そして、だんだんとくっきりと目に映えると、それが、――私達人間が住んでいるような、街だとわかった。
夜の街だ。灯りはほとんどない。高層ビルが全くないから、田舎だとわかる。
「も、う……だ……め」
マコの悲鳴がきっかけとなる。
ゴンドラは高速で回転すると、そのまま加速した。
上部についているはずの軸を中心として、高速で回転を始める。
声を上げる間も無く、私は意識を失ってしまった。




