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システムE ver.2  作者: 八澤
第三話 トイレに入った後のヤ暮ったい女子高生が見せるわかりにくいサインを見逃すな
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ver.020


 マコは、一本の水色の水道管へと変化していた。

 そして、背後にあった丸い球体の形が崩れる。切れ目が縦に数本入ると、そのまま座布団のように広がると、……一つの生物の形をしていた。

 タコ。

 とんでもなく大きい。高さは十メートル近くある。あまりタコには詳しくないけど、こんな巨大なタコは私の星には存在していないだろうな。イカならまだしも、タコは聞いたことが無い。

 本体から、細い水色の――私が水道管と呼んでいた触手が張り付いていた。私達を今まで襲っていた奴らは、タコの触手だった。それを様々な物体へと擬態させていたんだ。昔、タコの生体についてテレビ番組が放送されていたけど、タコは下等生物の癖に、異様なほど能力を備えているんだとか。無限関節の八つの触手、自らの脳に記憶させ、それを元に行動出来る知能、擬態能力などなど。能力にエネルギーを大量に消費するのか、寿命は一年ちょっとらしい。

 触手を個別に倒すことが出来たのは、確か切り離せるから、だと思う。そこからまた再生されるらしい。一階のサソリが、映画に出てくるエイリアンのような身体能力を魅せてきたので、コイツも同じか、あるいはそれ以上の力を持っているはずだ。

 マコが変身した触手は、うねうねと私達へ近づいてきた。

「あ、あれは……マコ君じゃなかったんですか?」

「私のミスだ、ごめんね。アイツは敵の囮だった。私がマコを発見した時、触手が擬態したマコの囮があって、それから助けてくれたのが、今まで一緒にいたマコだったの。だから、私は信用しちゃったんだけど……うわー、アイツまで囮だったとは」

 思い出してみると、マコと再会してからおかしな点がいくつか浮かぶ。自分のスキル名を知らないような素振りを見せたし、ミナミと私で触手と闘って最中、マコは入ってこなかった。ダメージを負ってしまうからか。それに、メリーゴーランドが本体だとわかると、やけに食いついてきたし……。

 おかげで、私達の作戦は常時筒抜けになってしまい、今、まんまと誘い込まれたてしまった。

「マコ君は、どこに?」

「私もわかんないよ。まぁ、ここに居ないんだから、どこかに隠れているか……それとも、私が最初にミナミに化けた触手と会った時、そのモドキはまともに言葉を話せなかったの。私の言葉をオウム返しするだけだった。でも……」「でも?」「その後の、さっきまで一緒に居たマコに化けた触手は、流暢に喋っていた。私がマコに対して違和感を受けないまでに。だから、多分、マコはあのタコによって、頭の中を見られているのかも、しれない」

「そ、それは」ミナミは悟り、声を出さなくなる。

「物理的、精神的、両方だと思うよ。一階のサソリが手加減してこなかったし、あのタコも人道的にマコを調べるとは思わない」

 もうマコは助からないと思う。

 私は声を出さずに、そうミナミへ伝えた。ミナミは唾を呑み込んで、現在のこの状況が常軌を逸脱していると、理解したようだった。

 この瞬間になって、周りの空間を、透明の何かが蠢いているのを確認できた。言わずもがな、タコの触手達だ。私がミナミへぺちゃくちゃと状況を説明している間に、やっと集まってきてくれた。ちなみに、タコの触手は、人間に例えると足ではなく、手に当たるらしい。もっと言うと、タコの体は、あの丸い部分がお腹、その上に頭があって、人間で表すと、頭から腕が生えているんだとか。

 ケータイに視線を落とすと、メーターが表示されている。多分ミナミにかけた【瞑想ギガドレ】の残り時間だ。もう数秒も持たない。

「周りに触手があるのがわかる?」

 ミナミはコクンと頷いた。

「【SP】はあるよね?」

「は、はい」

「じゃあ、まずは【ひあぶりのけい】を使って」

「ここで?」

「うん。ってか、早く、その後の作戦はまた言うからッ」

 私がそう叫んで、走り出す。

 タコの正面へ向かって。

 私が動き出した瞬間、周りの視界が微かに悶えた。触手が私を捕獲しようとした瞬間、真っ赤な波が唸りを上げて、空間を侵食していく。

「【ひあぶりのけい】」

 私の【瞑想】を一度積んではいるけれど、仲間にスキルが当たらなくてよかった……そう思うほどの非道いスキルだった。赤い線を追うように、真っ赤な炎がミナミを中心に広がっていき、一瞬のうちに、周りにあった触手は焼かれ、砕けて崩れていく。

 ミナミのスキル、【アツイ】の上位バージョンだとは知っていたけど、期待以上の攻撃だった。だてにお喋りして時間を潰していたんじゃない。触手が集まるのを狙っていたんだよ。

 私はその炎を突っ切るように、真っ直ぐタコへ駆けた。予想通り、タコの触手は砕けた部分がボロボロと壊れていくが、再生しようとしている。だが、まだ時間はかかる。

 この隙が、勝機。

 私の【SP】は三まで回復している。

 よし、このままタコへカッターを突き刺す。その瞬間に【閃光】を発動させて、先ほど触手を破壊したように、内部へ電撃を流す。多分、大ダメージ。更に追撃、撃破! 

 タコの目の前に到達し、その大きさに再度驚く。本体からも、何かレーザー的な攻撃をしてくると構えていたけど、ここまで来ても、何もしない。それに私には【閃光】がある。これで、どんな攻撃にも対応できる……。

 そう思った時だった。

 目の前で聳える巨大なタコは、更に巨大化した。ぐぐぐッと唸りを上げて、目や頭部が持ち上がっていく。

 ――違った。

 巨大化じゃない。タコの本体が持ち上がっているんだ。クレーンで引き上げられるかのように、空へ浮いていく。本体の後ろに隠れていた一本の触手を使って、ジャンプした。タコは全長の二倍ほど、空を飛んだ。光が遮られて、影が出来る。これじゃカッターが届かないよー、とかそういうレベルじゃない。頭上に飛んだ本体の根本には、真っ黒な花の蕾のような装飾が施されていた。

 いや、装飾なんかじゃなくてッ、

 パックリと開いたそこに見るのは、鋭利な刃に近い……歯だ。

 人間なんて簡単に呑み込めるほどの、穴が空に出来上がっていた。

 脳内で、ゆっくりと映像が蘇る。タコの生態を特集した番組では、最後のほうになって、タコの捕食シーンを放送した。

『見てください。触手の根本には、このような口がついています。触手で捕えた獲物を、この口についている歯で、砕いて食べてしまうんです』

 アナウンサーがそう言って、タコが足を広げる。一瞬だけ、根本に黒い塊が見えて、次の瞬間には、貝に覆いかぶさると、バリバリと食べていた。

 それとそっくりの映像が、目の前で展開されていた。

 私は急停止すると、刹那ダッシュで反転して跳躍。

 その瞬間に、タコは落下してきた。

 凄まじい爆音が響き渡り、間一髪それた私は、風圧で吹っ飛ばされる。

 これはちょっと想定外だ。どんな攻撃でもそれを起点として【閃光】を打ち込むつもりだったのに、あれは絶対に無理! まさかのこだわり物理型。あの直撃を喰らったら、多分私の【DP】じゃ耐え切れない。突き破られて、体の半分はもっていかれる……。

「セセラギさんッ」

 ミナミは駆け寄ってきた。

「駄目だ、どうしよ。あれじゃ接近できない」

 タコは、私達が近づけないのを悟り、触手を再生されている。邪魔が居ない今がチャンスなのに、これじゃあ近づけないな。

 どうしよ。マコが居れば囮になるのに……。亡きマコへの怒りを燃やしていると、ミナミがすっと立ち上がった。

「動きを止めればいいんですか?」

「うん。その隙に私の電撃を内部に叩き込もうとしたんだけど、どうもムリゲーみたい」

「わかりました。私がやります」

 ミナミは固く唇を結ぶと、決心したように声を出す。

「え?」

 ちょっと、と言う前に、ミナミはタコへ向かって走り出してしまった。

「ミナミッ」

「セセラギさん、お願いします」

 ミナミがタコへ近づいた瞬間、またタコは空へ飛んだ。この距離からタコの頭が見えたけど、その目がしっかりとミナミを見据えていた。

 あまりにも人間じみた、動きをしている。

 それに一瞬見とれてしまった途端に、ミナミを捕食した。

 私には、ミナミの体がスッポリと穴に丸呑みされる瞬間が、スローモーションで目に映る。

 あぁ、これは死んだな。

 そう思った。

 が、

「【じっけんだい】ッ」という声が響いた。

 続いて、タコの落下音を掻き消すほどの轟音が、空間を響かせた。

 タコの体が大きく揺れた。

 そして、カルタが風圧でひっくり返るかのように、捲れた。そのまま、ヒクヒクと痙攣している。

 ミナミは、自らタコの口の中に入り、電撃を内部から打ち込んだ。凄い、普通思いついても、やらないよ。特に、私は。

 ――代償として、ミナミの体はボロボロになっていた。上半身は無事だったけど、下半身が原型を留めていない。私よりも【DP】が少ないから、まともに守れたのは右足だけだ。左足は、根本から千切れている。腰は、左右両方から万力で押しつぶされたかのように、凹んでいた。血が滲み、肉が零れている。

「せせ……み……ちゃ」

 ミナミは私に向かって何か言葉を吐く。

 一階のお返しで、その姿をもっと眺めていたかったけど、私は諦めてタコへ向かった。

 ダウンだ、一斉攻撃!

 タコに皮膚にカッターの刃を押し当てると、簡単に裂けた。血が噴き出る。それにめげずに腕を突っ込むと、肩まで入ってしまった。

 私は力を込めながら、タコの体を駆けあがる。反撃があった場合、即座に【閃光】を放とうとしたけど、今、タコはそれどころじゃないらしい。このまま一気に切り裂き、脳を見つけて潰す、潰してやる。

 血の鉄臭さとタコの生臭さで鼻がもげそうになるけど、お構いなしに私は力を込めた。両目のちょうど真ん中に差し掛かる。この辺りにあるはず……ぬるりとした感触が……あぁ。

 カッターの切っ先が、何かに軽く触れた時だった。タコは体を伸び縮みさせて、私を振り払おうとする。必死に食らいついていると、誰かが背後から抱きついてきた。

 タコの一本の触手が私に撒きついていた。その衝撃で、私はカッターから手を離してしまう。

 力が籠められる。ヤバいと思ってケータイを覗くと、【DP】が急速に減っていた。このままだと圧死してしまう。

「【閃光】」

 を発動させた。

 ――が、ここで私はミスをしてしまったことに気づく。赤い電撃は表面をなでるだけで効いていないし、【閃光】は己の攻撃力を軽減させてしまう。すなわち、私の力が弱くなってしまうので、この触手を振りほどけない。ここは、【ビルドレ】を使う場面なのに、ミスった、ちょ、今のは無しッ! え、あ、だめ?

 クソッタレ

 万事休すだ。

 クソ、これがゲームだったら、もう攻略法はわかったから、他のステージで草を集めて魂を集めてレベルアップして挑めば絶対にクリアできるのに。まずはミナミのスキルで触手を一掃して、捕食してきた時に、ミナミを食べさせて内側から【じっけんだい】を使って、ダウンした隙に、私が攻撃すればいいだけなのに。

 あぁ、これはゲームなんかじゃないから、死んだらそこで終わっちゃうんだ。今回は、マジで無理かも……。

 それでも、何かタコに隙が生まれないか、必死に目を凝らしていると、ミナミがゆっくりと動いているのに気が付いた。私は、てっきり自分に向かって【カイフク】を使用していると思ったので、ボロボロの体の状態で居ることを不思議に思う。

 タコは、私に直接攻撃を喰らったからか、私のことしか見ていない。もう【DP】が尽きてしまうその時まで、思いっきり力を込めて押しつぶそうとしている。でも、そのおかげで、ミナミが両手で地面を掴みながらゆっくりと近づいていることに、気が付いていない。

 ミナミは、ナメクジの体液のように、真っ赤な血の跡を作りながら、タコの真横へたどり着いた。でも、そこから何をするのか? 炎系のスキルはタコには効くと思うけど、それが致命傷までになるとは到底ありえない。雷系はコイツは内側から食らわせないと意味ないし、氷も、表面だけだし……。

 ――そうだ、ミナミにはもう一つのスキルがあった。

 使用条件は、三つの属性のスキルを使うこと。

 あの路地で囲まれた時に、【ツメタイ】を使用している。私の【瞑想】をかけてから、タコの目の前に来るまで、【瞑想】の効果が切れていなかったので、戦闘は持続していた。

 次に、周りの触手を焼き殺すために、【ひあぶりのけい】を使った。

 そして、さっき食べられながらも、【じっけんだい】を放った。

 三属性を発動させていた。

 使用条件を、満たしている。

 ミナミも、それを理解しているのか、タコの真横へたどり着くと、腕を伸ばした。ぴたりと、右手の平合わせる。

 その瞬間、ミナミのポケットが、爆発するかのように、光った。

【うチかラばクはツ】

 ミナミの手の平が、真っ白に輝く。その光は、手を覆うような球体を作り出すと、それが、タコの体の中へ入っていった。

 私の【DP】が止まった。

 それと同時に、タコの動きが止まる。

 触手から力が抜けて、私は地面へ落ちた。「ぎゃッ」

 タコの体が、一瞬縮んだように凹んだ。

 刹那、爆ぜた。

 表面から白い光がいくつも突き抜けて、光の渦を作り出した。

 数秒も経たないうちに、タコは跡形も無く消えてしまった。

「終わった……」

 その後に残ったモノは、一階のサソリと同じように、真っ黒な染みが地面に張り付いてい――

 もう一つ、あった。

「どうして……」

 タコが居た場所に、マコが仰向けになって倒れていた。


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