ver.019
フードコートから出て、私達はメリーゴーランドから距離を取るように動き始める。すると、今度は、メリーゴーランドは私達にその姿を誇示するかのように、動き始めた。まるで、もう自分の姿が気づかれていることを理解しているかのように。
メリーゴーランドは、アトラクションの隙間を縫うように進んでいた。本体の表面に、メリーゴーランドの絵を映し出し、それが潰れていた。
歩きながら作戦プランを練る。まず、私が補助系の中途半端、マコが物理主体、ミナミが高威力、高消費の魔法砲台とわかる。今度は、私が囮にならず「なんでッ!?」「最後まで聞けッ」マコにその役を頼むことにした。「非道いよ、ねーちゃん」「私よりも【DP】が高いし、何より今回のマコのスキルは使えない。一応【瞑想ギガドレ】を一度積んでおくから、それで我慢してね」
「二回使ってはくれないの?」
「ミナミがいるでしょ」ミナミを向く。「今回は、ミナミのスキルが勝利への鍵だから。少しでも威力を上げるために、ミナミに積んでおく。大丈夫? ミナミ」
「はい」
その時、振り返ってぎょっとした。メリーゴーランドは更にスピードを上げて近づいて来たからだ。私達は慌てて、近くにあったビル型のアトラクションの隙間に隠れた。そこから少し進み、メリーゴーランドを中心に、円を描くように回り込んで位置を変えた。袋小路のような場所に入ったが、むしろこの形のほうが安全だ。モドキが現れても、正面に攻撃を集中すれば、簡単に返り討ち出来る。
「もう時間は無いみたい。まずは【瞑想ギガドレ】」マコに向けて積む。「よし、行け三十秒しか持たないから、早めにね」
「弟使いの荒い姉め……」
マコは恨めし気に私のこと睨んだが、私が早く行けと顎で示すと、やっと走り出した。
その姿を、私達は影に隠れながら伺う。
この場所はまだメリーゴーランドに割れていないからか、メリーゴーランドは動きを止めていた。そこへマコが姿を現すと、メリーゴーランドは獲物を狙う生物のように、ゆっくりと近づいていく。
突如、私達が潜む路地から、音が響いてきた。慌てて見上げると、そのビルの上部に、ジェットコースターの線路があり、そこを一台のトロッコがかけて行った。脅かすなと内心冷や冷やしながら、息を潜めて、マコの様子を伺う。手を握るミナミから、ドクンドクンと心臓の音が伝わってきた。
メリーゴーランドの目の前までマコは移動した。くるくると回っている。ここからだと、おかしな様子は見られない。
何も起こらない。
マコは一瞬振り返ったが、そこに私達はいない。おどおどしながら、バットを掴むと、入口の柵へ思い切り振り下ろした。
ミナミは私の手を力強く握った。
反応は無い。普通に、ガンッと音が鳴っただけだ。マコは、更に何度か叩いたけど、おかしな様子は見られなかった。
うっそ、また私はミスったのか? いや、メリーゴーランドは動いて私達を追ってきた。敵に違いない。もしかしたら、今回倒すべき敵は他にいるの? 一階のサソリの時は、子サソリが居たが、あれはサソリの子供みたいなモノだ。実質、サソリ一匹だった。
クソ、本当なら、マコを襲っているうちに、ミナミと私で接近して高威力のスキルを叩き込むつもりだったのに。
その時、メリーゴーランドは色を変えた。
水色の丸い球体へと変形した。
マコが、驚いて後ろへ下がった。
正体を現した。
よし、突入しよう。私は意気揚々と立ち上がろうとした。
が、
ミナミが私の服の裾を子供みたいに引っ張る。
ぐいぐいと、力強く。
「待って。まだ動けない。メリーゴーランドが変形するはずだからッ、それを見てから積む」
だけど、ミナミは私の服を掴むのを辞めない。
どうしたの?
――と言う前に「【瞑想ギガドレ】ッ!」と叫んだ。
何故なら、ミナミは口をパクパクと動かしながら、何か透明の物体に体を締め付けられていたからだ。
水道管が、体の色を消して、ミナミに撒きついていた。
どこからだ? 正面は私とミナミでずっと見ていた。背後には壁がある。モドキが侵入場所はどこにも無いし、何より、奴らは私達の位置を知らないはずだ。
ゴーッ!
と上部から轟音が響いてきて、理解する。
ジェットコースターか。モドキは、そこに張り付いて、私達を見つけたのか。上を見上げると、空までの空間に何か透明の物体が脈動しているのを視認出来た。
この狭い場所で攻撃されたのは不味い。
だから、ミナミにスキルを使ってもらいたかったんだけど、ミナミは一向にスキルを使ってくれない。体を巻きつかれているから――じゃなかった。
私はカッターを取り出すと、刃を短く伸ばす。
ミナミの口は開いている。声を発すれば、スキルを使用出来る。だけど、使わないってことは。
私はミナミの口元に、カッターを突き立てた。
ミナミの唇からわずか五センチほどのところで、刃は止まり空間から真っ赤な血が噴き出てきた。
水道管が、色を消してミナミの口を塞いでいた。
更にもう一度突き刺そうとして、腕が動かなくなる。ズルルと、背後から音がした。あぁ、もう、更にもう一匹上から入ってきやがった。
「【閃光】っ」
私の残り【SP】は一。
電撃を纏いながら、攻撃を受けているので体感速度がアップ。カッターを残った手でつかみ、私の腕に巻きついたモドキに刃をねじ込み、その状態で電撃を内側へ伝える。
バンッ
と音が弾けて、水道管は色を取り戻して砕けた。
「ツ、ツメタイッ」
ミナミの腕から氷の塊が生まれ、ミナミの体に巻きつく水道管に当たった。すると、それが水道管の表面に纏わりつき、そのまま凍りついた。私はそれに蹴りを入れると、粉々に砕け散った。
ミナミは水道管から解放されて、地面に手をついて呼吸する。「ゲホゲホッ……はぁ、はぁ、……はぁ」
「行こう。ここはもう駄目だッ」
この狭い空間にとどまっていると、更に水道管が集まってくる。ってか、やられた。メリーゴーランドが無駄に自分の姿を隠さなくなったのも、それを逆手に取るためだ。私達が接近してくる、あるいは、囮を使うことを読んで、逆にメリーゴーランド自身を囮にした。その隙に、隠れている私達をジェットコースターで上空から回りながら発見し、攻撃をしかけてきたんだ。
「ま、待ってください」
ミナミの足はふらふらとしておぼつかない。それでも、私は肩を貸すと、引きずるようにして進む。
「もう、今しかチャンスは無いの。踏ん張ってッ」
私達は二人して顔を真っ赤に染めながら、必死に足を動かした。
左右を見回したけど、水道管の姿は無い。
あと十メートルで、本体にたどり着く。
マコがいた。
何故か、私達の事を見て……笑っていた。
嫌な予感がした。
「マコ、そこから離れて。奴らが襲ってくるッ」
私が叫んだ。
が、マコは依然笑っている。そして、狂ったかのように震えると、顔が消えた。手も足も体も、全て水色へと変色していった。あまりにインパクトがあり過ぎて、私達の足は止まってしまう。




