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システムE ver.2  作者: 八澤
第四話 間違えて電車の中で女子高生と二人きりになったのに何も出来ずに別れた IN YOKOSUKA
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22/62

ver.022

※注意

第四話は大変グロテスクな話となります。覚悟を持ってお読みください。

 うぅ……吐きそう。

 喉元を酸化した液体がさっきから行ったり来たりしている。いっそ全て吐き出したら楽になれるんだけど、出てこない。

 私は小さくため息をつきながら、顔を上げた。このため息は、吐き気に対してじゃない。

 この、……多分、三階に対してだ。

 街。

 私は、街の中で、一人馬鹿みたいにつっ立っていた。


 一階は普通の学校。二階は、配色のドぎつい遊園地。

 そして、三階は、見たことの無い街だ。ここは、多分商店街の一角だと思う。道路があり、その脇に、様々なお店が並んでいる。その歩道を、私は歩いていた。空を見上げると、雲一つ無い世界で、真っ黒な色に覆われていた。夜みたいだけど、空には月はおろか、星一つとして浮かんではいない。

 人の気配は無かった。一階、二階と違い、あきらかに人の生活感があった雰囲気を醸し出しているのに、誰も居ない。いや、何かまたキッカケが作動していないから、モンスターが現れないのか。

 そんなことを考えながら、私は一人で歩いている。ミナミとマコの姿はどこにも無かった。私達は、あの高速回転するゴンドラの中でシェイクされて、そこで私の記憶は終わっていた。気が付けば、私は、先ほど真上に聳えていたはずの街に、一人で佇んでいたんだ。

 闇雲に進むのは、多分あまり褒められた行動では無いんだろうけど、私の足は自然と動いていた。何故なら、この商店街の雰囲気が、……不気味だから。  

真っ暗だからお化けが出そうで超怖いよー! ――じゃなくて、なんだろう、この不思議な違和感。別にお化けとかは大丈夫問題ないの。脅かしてきたら、逆に殺してやる、っていつも息巻いているから。それにそんなアホなこと、この年になって信じてるわけねーよ。

 曲がり角に建っていた写真屋の前で、立ち止まった。ショーウィンドウに、いくつかの写真が飾られていたけど、その写真に写る人間の全ての顔の目が、黒いマジックで潰されていた。とある家族を写したもので、全て汚されている。

 それを見てから、背筋を冷たい風が通り抜けるようになった。いや、怖いんじゃなくて、この街が私の住む世界の街と微妙に違うことに気づいてしまったからだ。ズレが、ある。一階の校舎や二階の遊園地は、共にどこかで見たことのある光景だったけど、この街は完全に何かが違う。

 別種の世界だと思う。街の姿から建造物の構造、街灯の形、道路の広さ、公園の遊具、それが、全部見たことあるようで、見たことが無いんだ。さっきから、それが圧力となって、私の体にぶつかってくる。痛みを感じてしまうほど。なんかムカつく。

「マコーッ!」

 横断歩道を渡り、商店街を抜ると、目の前に巨大なデパートが建っていた。それに向かって、私は怒鳴っていた。マコを呼ぶというよりは、怒りをぶつけるかのように。

「ミナミーッ!」

 立て続けに何度も声を発しても、誰も私の元へ駆けよって来ない。声を出すことは、敵の注意を引いてしまうのだけど、まだキッカケは作動していないだろうし、何より、今、この世界で一人であーだこーだと思考しているのは、なんだかヤバい。一刻も早く、二人と合流したかった。

 が、居ない。

 クソッタレ

 唾を道端へ吐き捨てると、もう一度商店街へ視線を投げた。そういや、さっき、商店街の終わりに、『おとなのおもちゃ』という看板を掲げた店があったな。一体大人のおもちゃとは何なのか? チェスや将棋? それともコケシかな? 電動で震える細工が施されている奴。昔、友達から、コケシ伝統工芸品と扱って、法の網をかいくぐっているという話を聞いた時、その発想力のしたたかさに驚いたっけ。

 一度、商店街の中で、店を虱潰しに探ってみようかな、そう思っていると、商店街とは別の場所が、光っていることに気づいた。真っ白の光が、ぼんやりと光の裾を上げていた。

 二人のうち、どちらかが居るのかもしれない。私は小走りで光の元へ向かった。


 駅だった。

 駅名は『汐入駅(しおいりえき)』

 ……聞いたことも見たことも無い名前だった。まぁ、ここは田舎の片隅にあるような街だから、知らなくてとーぜん。改札口の正面に大きな地図があり、そこで、この場所がわかる。今更ながら、この面積は絶対に小学校の三階に入りきらない。私のワープ理論が、かなり有力となってきたよ。

 そういや、この三階には、あの巨大な壁が無かった。もしかしたら、この地図の奥まで行けば同じように壁があるのかもしれないけど、この場所からは何も見えない。

 地図には地名と、この付近の名前が書いてある。

 神奈川県。

 ……かみなかわけん、何それ。

 横須賀市

 ……よこすがいち? ここは、市場なの? 地図の横に張ってある広告によると、どうやらここは横須賀市という地名らしい。

 他にも広告には、日本と書かれていた。ひほん? それとも、にちほん? 他の広告から察するに、どうやらこの国は、日本というらしい。聞いたことの無い国名だった。だけど、私はその名前に強い興味を抱く。だって、まだ、これが未開のジャングルが溢れているような小さい国の名前だったら、知らないでも別にどうでもいいんだけど、文字が……漢字だった。漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、それら全て私の世界、私の国で使われている文字のはずで、それが様々な場所に散りばめられているのに、私は、この国の、世界を知らない。

 まぁ、そんなことは、どうでもいい。今までもっとおかしな世界を辿ってきたんだ。今更、この程度では驚かないよ。……驚きはしないが、このくらいの微かな違和感のほうが、私に降りかかるストレスの度合いは大きかった。

 光は、改札機を通り抜けた先から、伸びていた。

 やんわりと頭が混乱している中、その光へ向かおうと足を上げて、私はそこで固まった。

 いつの間にか、改札機の前に、誰かが立っていたからだ。

「ミナミ……」

 じゃない。身長的にそう思ったけど、知らない人だった。中年の男性で、死んだような目で私のことをじっと見つめていた。ラフな格好だった。

 右手に、包丁を持っていた。

「うわぁああああああああああああああああああああああ」

 その男性は、突然雄叫びを上げた。

「いぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

 思わず耳を塞いでしまう。成人男性の本気の怒鳴り声で、心臓がバクバクするほど音を立ててビビっていた。

 予期せぬエンカントに、私は一歩後ずさった。

 途端に、男性は駆けた。

 切っ先を私へ向けながら、全力でだ。

 反応が一瞬遅れながらも、私は真横へ飛んだ。転がって、片膝を立てる。ケータイを確認すると、【DP】が減っていた。切られたのか。しかも、残り30しかない。

 ただの包丁が、なんて威力。

 男性は、ふぅふぅと息を荒げながら、私の姿を捕えると、また構えた。

「【ビルドレ】」赤い衣が私に降りかかる。

 男性は再度突進してきた。

「【閃光】」

 バチバチと赤い電撃が私に纏わりつく。

 だが、男性はそんなこと気にもせず、先ほどのように突っ込んできた。

 【閃光】が発動した。

 顔面へ向かって来る包丁をかわすと、カウンターで掌底を男性の顔へ打ち込む。

 ぷしゃッ

 と鼻血が噴き出た。が、それでも男性はがむしゃらに腕を伸ばす。

 それが、とても嫌だった。

 大人の男性が、馬鹿なガキみたいに腕を振り回すのを見ると、ムカムカとした感情が湧き上がってくる。

 カッターを取り出した。

 逆手で握る。

 右目へ、思いっきり差し込んだ。

「あ……あ、あ……ああああああああああああああああああ」

 流石に目を切られて、男性もビビったみたい。真っ赤な血が涙のように垂れている。それを拭おうとして、必死に目を擦っていた。

 汚ねぇカッコ。私が修道女みたいなタイプだったら、あらあら痛そうに、と嘆くかもしれないけど、生憎私はそんな感動的な感想は感じない。

 人間の目を潰した。

 ――という衝撃も、あまり感じなかった。今までモンスターと闘って、それを乗り越えてきた。だから慣れているからか、達成感だけを受けた。

 男性は、大きく息を吐いて、震え始めた。

 そして、残りの目で、私のことを睨む。

 一階でも、似たようなシチュレーションの中、サソリに睨まれたけど、……この男性の凄みは、全くの人間の姿でありながら、段違いだった。ゾクゾクとリアリティ溢れる殺意が、私を切り刻もうとしている。

そういえば、私の【SP】は残り少ない。【ビルドレ】が切れる前に、終わらせなくては。

――殺さなくては。

 ゆっくりとカッターを持ち上げた瞬間、

 男性は構えるのを辞めると、包丁を……なんと自分の腹へ差し込んだ。ぐちゃぐちゃと押し込んでねじ込んで……倒れた。

 動かなくなった。

 そして、消えてしまった。

 後に残ったのは、今までのモンスターを殺した時と同じく、影があるだけだった。ただ、この影は、先ほどの男性と形が酷似していた。

 ケータイが震えた。開く。


キティ・GA・一十3 を撃破しました。

レベルアップいたしました。

【SP】が三増えました。

【守る→加速】を習得しました。

【ト・リ・パ】を習得いたしました。


 今回は、最後は自滅してくれたんだけど、倒したことになるみたい。


 スキルをチェック。


【守る→加速】

補助

タイプ――無

消費SP 5

対象の一体の動作を高速化させることが可能。これによって人知を超えた挙動が出来る。

『猿の劣化(笑)と騒がれていた時代はもう終わった。分厚いページの山がいくつも築かれるたびに、鳥は新たな翼を確率で手に入れる』


ト・リ・パ

補助

タイプ――無

消費SP 5

範囲を指定し、そこに亜空間を発生させる。その空間に入り込むと、動きが鈍る。自身に高速移動をかけるか、閃光の状態に限り、普通に動ける。

『「おいおい、誰が鈍足(おせぇ)だと、オラ」

超重量級の奴らは、その全てが逆転した部屋でイキイキと蹂躙を繰り広げる。軽くて速い奴らは、ただ時が過ぎ去るのを藁にもすがる想いで、生き延びようとする』



 スキルは増えたのは、嬉しい。これで、多角的な動きが出来る! と喜べるんだけど、うーん、ちょっと悲しいのが、一向に攻撃スキルが増えないこと。うぅ、本当は、ミナミのスキルみたいに、ド派手な超火力で全てを跡形も無く消し去りたいのに……。私は補助で仲間をサポートする、僧侶(女)タイプなのかしらん。

 そんなことを思いながら、ステータスを開く。

 それでも、【SP】とスキルが増えたので、今まで寂しいと感じていたステータス画面が、やっと賑やかになった。



セセラギ

DP            SP

300/300     10/10 ◎

 

①閃光 ②ビルドレ ③瞑想ギガドレ ④守る→加速 ⑤ト・リ・パ


 ケータイを閉じる。背後にある改札口の奥から漏れている光が、さっきよりも強まっていることに気づいた。駅員はもちろんいない。どうせここに居ても仕方ないし、何より、先ほどみたいに突然襲われる可能性がある。私は意を決して、改札機の間を通り抜けた。幼少の頃、改札機を通り抜けようとして、その瞬間に扉が閉まり、顔をぶち当てたことがあるから、今でも、改札機の間を通るのに、覚悟がいる。

 階段を上がり、駅のホームに向かう。そういえば、ミナミは二階に居た時、一人で居ることを異様に怖がっていた。今、また私と離ればなれになっちゃったけど、平気かな? さっきのキティ・なんとかに襲われて強姦でもされているかもしれない。マコは男の子だし、大丈夫だろう……きっと。

 上りのホームは光っていなかったので、下りのホームへ向かった。駅名が書かれたボードを見つけたけど、やっぱりどれも見たことが無い。

 駅のホームにたどり着くと、それに合わせるように、電車が止まった。爆音みたいな音がどこから聞こえてきた。京急線、と書かれている。車内は明るく光っていた。今までの世界のどこか人工的な光と違い、現実味のある光だった。広告には、何故か節電と書かれているのに、明かりは全開だった。

 一瞬考えたけど、私は、のこのこと乗車した。この先に何が待っていようと、それなりに善処する想いを抱いて。

 途端に、扉が閉まる。走り出した。外を眺めると、暗闇に包まれた街が映る。やっぱり都会じゃないね。流石に畑や田んぼは無いけど、質素で異質な住宅街が並んでいた。

 真っ暗で、人の姿は無い。

 光っているのは、私が乗っている電車だけ……か。行く先はわからないけど、どうせこの先にある、光っている場所が、目的地なんだろう。今は、悩む必要は何も無い。

 どっと疲れが体にのしかかってきて、私は長椅子に座った。

 瞬間、立ち上がった。

 何故なら、私の向かいの長椅子に、人間がいつの間にか座っていたからだ。

 男性だ。

 真っ赤なパーカーを着て、メガネをかけている。中年を超えて、さっき殺したキティ・なんとかよりも歳を重ねた、おじさんだった。四十歳以上に見える・死んだように、寝ている。頬が削ぎ落されたかのような印象を受けたけど、別に不健康というわけじゃない。そういう見え方なだけだ。……左腕が、無い。

 頭を長椅子の端へ貼り付けていた。寝息が聞こえるから、生きている。どう見ても人間だ。だけど、さっきの敵は人間と同じ形をしていた。三階の敵は、全て人間と同じ格好なのかもしれない。先手を取られるわけにもいかず、私はそっとケータイを取り出すと、開いた。

 その時、電車は急停車した。私は転びそうになって、手すりをぎゅっと掴んだ。

「うわッ」

 衝撃で、座っていた男性は起きてしまった。じろりと、私のこと舐めるように見つめてくる。その視線がなんだか厭らしくて、鳥肌が立った。

「……あの」

 と、私は声をかけてしまう。そんな自分に対して心の中で突っ込む。何してんだよ! と。さっき、モンスターと遭遇したってのに、何声をかけてんの? ここは先手必勝一撃必殺で決めるべき。

 だけど、体が言うことを聞かない。私は、引き寄せられるかのように、男性に近づいていく。

「ヤバい、眠り過ぎた」

 男性は突然立ち上がると、私のことなんか眼中にせず、いつの間にか開いていた扉から降りて、ホームへ出た。慌てて追いかけようとしたけど、それを阻止するかのように、扉は閉まった。

「ちょっと」

 声を出したって、無駄なことはわかる。だけど、今の私は、声を出さずにはいられなかった。何故だかは知らないけど、私の体が震えている。恐怖でだとか、トイレに行きたいから――じゃないよ、もちろん。

 理性では無い、――本能に唆された震えが、私の体を突き立てていた。

 ホームに降り立った男性は、はっとして振り返る。電車は動き出した。その中で、私と目が会う。何故だか知らないけど、私は、この男性の顔に、……見覚えが、ある? 男性は、驚いた顔をしていた。

 その男性に向かって、ホームの端から、何か黒い物体が、そっと近づいていく。新手のモンスター? 私は、今すぐにでも助けに行きたい衝動に駆られたけど、もう無理だ。

 私が一瞬目を瞑った途端に、その男性と黒い影は消えてしまった。

 電車はトンネルに入る。



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