第六十九話 登攀の果てに
螺旋階段を一段踏みしめるごとに、世界そのものの「歪み」が重力となって二人へ伸しかかってくる。
階段の壁面には、世界の設計図たる幾何学模様と混ざり合い、幾重ものノイズを伴った過去の光景が明滅していた。
それはルシアンとルーシーが立ち向かってきた強敵たちの最期の影——水底で沈んだレヴィア、中央都市で散ったヴァルター、そして旧施設で葬った幾多の大罪の宿主たち。
(見苦しいぞ、ゼロッワン)
幻影のヴァルターが、冷ややかな瞳で階段の上から見下ろしてくる。
(世界を創りし神に挑むか。……お前が世界を直そうと壊そうと、待っているのはさらなる絶望の輪廻に過ぎん)
「黙れ、過去の幻影が」
ルシアンは一切足を緩めず、自らの左腕の肉を爪で深々と削ぎ落とした。
——メリメリ……ッ!
激痛が神経を焼き、過剰修復の肉芽が渦を巻いてヴァルターの幻影を容易く掻き消す。
「絶望の輪廻だろうと関係ない。僕たちを弄んだあいつの喉元を噛みちぎる……それだけだ!」
隣を走るルーシーの瞳にも、かつての虚ろさは微塵もなかった。
「怠惰」の波動が、階段全体に渦巻く重力を強引に打ち消し、ルシアンの崩れかける肉体をその場に繋ぎ止め続ける。
どれほどの時間、その不条理な階段を登り続けたか。
ついに視界が開け、二人は塔の最頂点——『世界の核』へと足を踏み入れた。
そこは、無数の星々が破滅と再生を繰り返すような、狂暴な光の奔流に満ちた円形の広間だった。
広間の中心、空間に浮遊する巨大な「脈動する透明な心臓」の前に、一人の男が優雅に腰掛けていた。
異界の洋装を纏い、退屈そうに指先で世界の理を弄ぶ男。
その顔は、かつてルシアンが前世で鏡で見た「自分自身」のようでもあり、同時に何物でもない無機質な神の貌をしていた。
「——やあ、僕の最高のおもちゃたち」
『原初の宿主』が、口元をゆったりと歪めて嘲笑う。
「よくここまで辿り着いたね。……君たちの苦しみ、絶望、そしてその憎悪……全て最高だったよ。さあ、次はどんな惨劇を見せてくれるのかな?」




