↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『傲慢』の不死者 〜死ぬことすら許されない絶望の異世界転生〜   作者: たむしゅう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/73

第六十六話 侵食の刻印

「ひ、ひぃぃっ……! 来るな、来ないでくれぇぇッ!!」


【暴食】の因子を宿す肉塊の男が、貼り付いた複数の顔から血と唾液を撒き散らしながら絶叫する。

かつて教団の庇護のもとで弱者を貪り、ヴァルターの死に乗じて「神の座」を夢見た男の威厳など、そこには欠片も残っていなかった。


「逃がさない」


ルシアンの短い呟きと同時に、ルーシーの手が彼の背中を優しく叩く。


――ギィィィ……ン。


空間全体を包み込む「怠惰」の停滞領域。

【暴食】の男が放とうとした胃液の奔流も、巨躯を翻して逃走しようとした脚の動作も、すべてが極度のスローモーションへと落ち込んでいく。


「あ……が……体が……進ま……な……っ!」


「僕たちの前で背を見せたこと、あの世で悔いるといい」


ルシアンは迷わず自らの左大腿部の肉を鋭い爪で深く引き裂いた。


――バリッ、と大腿筋が削れる凄惨な音。


激痛が神経を焼き、脳が「死」を認知した瞬間に発動する過剰修復。

裂けた足元から爆ぜるように伸びた赤黒い肉芽の帯が、逃げ遅れた【暴食】の男の巨躯へと喰らいつき、その巨体を何十重にも緊縛した。


「ギニャァァァァッ……! 痛い、痛い、喰われる、俺の因子がぁぁっ!?」


肉芽は男の肉体を粉砕するにとどまらず、その胸元で蠢く【暴食】の因子そのものを「材料」として貪り食い、ルシアンの傷口へと再吸入されていく。


他者の因子を強引に過剰修復の糧として取り込む狂気の所業。

【暴食】の男が干からびた肉屑となって床に崩れ落ちるのと引き換えに、ルシアンの全身の皮膚に、ドス黒い不気味な紋様が静かに浮かび上がった。


「……ふぅ……っ……はぁ……」


膝をつき、激しい息吐きとともに荒い呼吸を繰り返すルシアン。

他者の因子を吸収したことで、胸腔の「傲慢」が不快な拒絶反応を起こし、体内の全細胞が互いを攻撃し合うような激痛が彼を襲う。


『お兄ちゃん……だめ……これ以上取り込んだら……お兄ちゃんまで……壊れちゃう……』


ルーシーがルシアンの首元に小さく抱きつき、必死に「怠惰」の波動を注ぎ込む。

彼女の触媒としての干渉によって、ルシアンの体内で暴れ回る【暴食】の残滓がどうにか中和され、漆黒の紋様が徐々に皮膚の奥へと沈んでいった。


「大丈夫だ……ルーシー。……これで、道は開けた」


ルシアンは血を吐き出しながら立ち上がり、三人目の宿主が倒れた背後の壁面を見据えた。


【色欲】や【暴食】の宿主たちが倒れたことで、彼らの因子とルシアンの過剰修復が共鳴し、旧施設最奥の「隠された隔壁」が重々しい音を立てて崩れ始めていた。


崩落した瓦礫の向こう側——。

そこに広がっていたのは、無機質な鉄とコンクリートの施設ではなかった。


前世の記憶にあるような「近代都市のビル群の影」と、異世界の「血と臓物で出来た不気味な樹木」がツギハギ状に混ざり合った、常理を逸脱した歪みな空間——『世界の裏層(虚無の領域)』への入口だった。


「……見てみろ、ルーシー。あの光景を」


ルシアンの瞳に、極冷の殺意と狂気が灯る。


「あの『原初の宿主』は……僕の前世の世界すら、自分の玩具として切り貼りしていたんだ。……あいつの創ったこの不条理な世界の全てを、僕たちの手で塗り替えてやる」


二人は確かな足取りで、不気味に歪む『世界の裏層』へと足を踏み入れていった——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。