第六十五話 蠢く群宵
「死ねぇッ、『プライド・ゼロワン』!!」
金属の肌を持つ男が、両腕の巨大な刃を打ち鳴らしながら突進してくる。
踏み込みの一撃で石造りの床が砕け、刃が空気を切り裂く高音が窄まった通路に鼓膜を破らんばかりに響き渡る。
——ガキィィィンッ!
ルシアンの自傷による過剰修復の肉芽槍と、男の金属刃が激突する。
火花と飛び散る赤黒い肉片。ルシアンの肉芽は削ぎ落とされてもなお、増殖の勢いを殺さずに相手の刃へ絡みつき、その金属組織を内側から食い破ろうと圧力を加えた。
「な……ッ!? なんて腕力だ……!?」
「見とれてる暇はないぞ、ゴミ屑」
ルシアンの瞳が冷たく細まり、すかさず左手で自らの脇腹の肉を力任せに抉り取る。
——ズブッ、メキメキ……ッ!
「が……ぁッ!」
絶叫を呑み込み、死への恐怖と激痛を代償として引き出す狂暴な過剰修復。
抉られた脇腹から幾重にも重なった肉の棘が爆発的に噴出し、至近距離から金属男の胴体を過酷に穿った。
「カハッ……あ、がっ……!?」
「【色欲】の女、横だ!!」
後ろで控えていた【暴食】の巨躯が叫ぶが、すでに遅い。
ルーシーの「怠惰」の波動が空間を覆い尽くしていた。
蛇のような影を蠢かせていた女の動作が、まるで深い粘液の中に沈められたかのように、遅延し、静止する。
「な……に、これ……体が……動か……っ」
女の瞳に恐怖が走る。
ルーシーは無表情のまま、ただルシアンの背中にそっと触れている。ルーシーの能力によって、相手の攻撃や回避という「事象の選択」そのものが遅延させられているのだ。
「僕たちの過去を……僕たちの苦痛を足蹴にしてまで手に入れたかった『神』の座とやらが、この程度の力か?」
ルシアンは金属男の胸を突き破った肉芽をさらに太く膨張させ、そのまま男の巨体を激突の勢い任せに【色欲】の女へと投げつけた。
——ドォンッ!!
肉塊と金属が激突し、爆音とともに壁面が崩壊する。
埃と血煙が舞い散る中、残された【暴食】の巨躯が、貼り付いた複数の顔を歪めながら、後ずさりした。
「化け物……教団の……実験台のくせに……ッ!」
「化け物、か」
ルシアンは血に塗れた右腕をだらりと下げ、首を緩やかに傾けた。
頭裏でチリチリと灼けるような記憶の断片——教団の男たちが自分たちを「成功体」と呼び、同時に「忌むべき怪物」として蔑んでいたあの日々が蘇る。
「僕たちを怪物にしたのは、教団だ。そして……この世界そのものだ」
ルシアンの足元から、さらなる過剰修復の肉芽が床を這うように広がり始める。
「なら、その怪物らしく……すべてを噛み砕いて先へ進むまでだ」




