第五十四話 焦土となった中央都市
崩壊した中央都市の正門を潜り抜けた途端、視界を埋め尽くしたのはどこまでも続く死の匂いだった。
かつて教団の権威を象徴していた巨大な大理石の街並みは跡形もなく砕け散り、黒く焦げ付いた瓦礫が山をなしている。その至るところに転がっているのは、無数の遺体——いや、『黒の天秤』の兵士たちの残骸だった。
防衛線を築く暇すら与えられず、ただ一方的な『暴力』によって解体された痕跡。
壁に叩きつけられて肉塊と化した者、刀剣で首から一刀両断された者。ギルバートが率いていたレジスタンスの精鋭たちは、反撃の暇もなく全滅させられていた。
ルシアンは血の海を踏みつけながら、都市の中心部へと足を進める。
「……あ……ぐ……っ」
瓦礫の隙間から、掠れた呻き声が漏れた。
ルシアンが視線を落とすと、そこには上半身だけになった男が転がっていた。『黒の天秤』の幹部であり、ギルバートの側近だった男だ。
「……ル、シアン……か……」
「ギルバートはどうした」
血を吐き出しながら、男は乾いた笑声を漏らした。
「ギルバート様なら……あそこだ……。広場の中央で……見せしめのように刺し貫かれている……。ヴァルター……あのバケモノめ……。兵の数も……罠も……何もかもをただ叩き潰して……」
男の瞳から、光が失われていく。
「逃げろ……ルシアン……。あれは人間じゃない……。教団の神そのものだ……」
息絶えた幹部を置き去りにし、ルシアンは中央広場へと足を踏み入れた。
広場の中央、粉砕された噴水台の上に、その男はいた。
『黒の天秤』の首魁、ギルバート。かつてルシアンを使い捨ての駒として冷酷に動かしていた男が、巨大な大剣で地面ごと刺し貫かれ、物言わぬ死体となって吊るされている。
そして、その死体の足元。
血の海の中に静かに佇む一人の男が、ルシアンたちの足音に気づいてゆっくりと振り返った。
白銀の教団衣に、返り血一つついていない異常な身なり。
手に提げた大剣の刃からは、今もギルバートの血が滴り落ちている。
純化派の頂点——ヴァルター。
「……遅かったな、異端の芽よ」
ヴァルターの眼光が、冷徹な殺意を孕んでルシアンと、その背後に潜むルーシーを射抜いた。
「教団の生み出した残骸どもを一度に清算できる。……神の導きに感謝を」
言葉が言い終わるより早く、広場全体の空気が軋み、殺気が爆発した。




