第四十八話 歪みの終焉
「ひ……ヒィッ……! 来るな、化け物……ッ!」
紫黒の閃光が吹き荒れる中、男はなりふり構わず瘴気を撒き散らし、教団の術式器具から過剰な負荷の過熱音を響かせていた。
だが、ルシアンの歩みは止まらない。
足を踏み出すたびに、自傷と修復の狂気に塗れた右脚の骨が異音を立て、過剰修復の芽が肉を強引に繋ぎ止める。
「教団の実験体……お前たち『試作型』は全員壊れて処分されたはずだ……! なぜこんな……こんな異常な力が……っ!?」
「……壊れているからさ」
ルシアンの低い声が、爆煙を切り裂く。
「まともな人間なら、とっくに発狂して死んでいる。僕をこんな化け物に変えたのは……お前たちが手を組んだ、あの教団だ」
ルシアンは左手で自らの首筋の肉を掴み、爪を深々と突き立てて真横へ引き裂いた。
——ブチチッ!!
「……ッ、ハぁ……ッ!」
絶叫すら呑み込む極限の激痛。
全身の血管が灼熱の血流で膨れ上がり、【傲慢】の領域が周囲の瘴気を一瞬で蒸発させる。
男が恐怖に顔を歪め、死に物狂いで放った大量の瘴気の触手。ルシアンはその全てを胸と腕で受け止めながら、泥を食むように前進した。
そして、間合いを潰す。
「……終わりだ」
ルシアンの自傷痕だらけの右手が、男の首元へと突き刺さる。
過剰修復の概念が男の体内に直接流れ込み、男の肉体構造そのものを内側から過剰に膨張させ、破壊していく。
「あ……がっ……あぁぁぁぁぁっ!?」
——グシャァッ!!
肉が破裂する凄惨な音が響き渡り、大罪の宿主だった男は、教団の術式器具ごとただの血の塊となって床へ崩れ落ちた。
しんと静まり返る地下室。
ルシアンは血の海の中に膝をつき、激しい吐息と共に血を吐き出した。
単独での【大罪の実験者】の討伐。
圧倒的な勝利の代償として、ルシアンの全身は見るも無惨な傷と過剰修復の痕で覆われていた。
『……すごい……お兄ちゃん……』
崩れ落ちた鉄鎖の陰から、試作型の少女が光のない瞳でルシアンを見つめていた。
その声には恐怖も驚きもなく、ただ壊れた人形のような静寂だけが宿っていた。




