第四十六話 混濁する殺意
地下施設の深層を塞ぐ巨大な鋼鉄の隔壁が、内側から飴細工のようにぐにゃりと歪み、爆音と共に弾け飛んだ。
激しい煙の中から這い出てきたのは、全身から紫黒色の不気味な瘴気を漂わせた男——大罪の実験者だった。
その男の肩には、教団「拡張派」の高位聖印が刻まれた異形の術式器具が、肉に直接喰い込むように装着されている。
ルシアンの瞳が、薄暗い闇の中で冷たく細まった。
(……教団の術式……? なぜ大罪の宿主が、教団の連中と繋がっている……?)
教団にとって、大罪の宿主や異端は排斥すべき「不浄」のはずだ。
自分を実験台にし、ガルドたちを惨殺したあの狂信者どもが、あろうことか大罪の実験者と手を組み、力を貸し与え、ここで何を企んでいたのか。
「……ヒヒッ、教団の残党かと思えば、薄汚いガキが二人……」
男は濁った瞳でルシアンと、床に伏せる試作型の少女を見下ろし、嘲笑を浮かべた。
「ああ、拡張派の連中が言っていた『失敗作』か。あいつらもいい知恵を出すぜ。俺に力と施設を提供する代わりに、大罪の因子を分け与えて実験の検体を集めさせる……互いに最高の取引だったんだがなぁ」
「……取引……?」
ルシアンの喉から、低く掠れた声が漏れ出す。
教団は清廉潔白な聖者などではない。異端を狩る裏で、さらなる力を得るために大罪の宿主すら利用し、実験を重ねていたのだ。
その理不尽な身勝手さと歪んだ欲望が、ルシアンの胸の奥で燻っていた殺意に一気に火をつけた。
「……教団も……お前も……」
ルシアンは左手で自らの右腕の肉を掴み、爪を深々と突き立てて、強引に真横へ引き裂いた。
——ブチブチッ!!
「……ッ、ハぁ……ッ!」
激痛が脳髄を焼き、体内の過剰修復機能が狂乱の熱を帯びて爆発する。
教団への憎悪、そしてその手先となって惨劇を貪る目の前の男へ向けた【傲慢】の殺意が、周囲の空気をごっそりと削り取った。
『……お兄ちゃん……』
背後で試作型の少女が、光のない瞳でその血飛沫を見つめている。
だがルシアンは顧みない。自らの肉体を壊し、絶望的な激痛を薪にして、目の前の「教団と結託した怪物」へ向かって弾丸のように地を蹴った。




