第三十七話 血の火蓋
作戦決行の刻。
轟音——!!
中央大都市の東区画から、夜空を赤く染め上げる爆発音が連鎖した。『黒の天秤』が仕掛けた大規模テロ攻撃だ。
聖堂周辺の防衛線を守っていた教団兵たちが、混乱と怒号の中で一斉に東区画へと雪崩れ込んでいく。
「東区画に異端者の主力! 救援に向かえ!」
「聖堂地下の警戒を薄くするな! 厳重に封鎖せよ!」
地上の喧騒を眼下に見下ろし、迷宮街の排気坑道から這い出したルシアンは、ただ静かにその光景を見つめていた。
『黒の天秤』の構成員たちが犠牲となり、教団兵の注意を引いている。
その命の対価を、ルシアンは一切の躊躇なく踏み台にした。
(……陽動は始まった。行くぞ)
ルシアンは聖堂地下へ続く巨大な鉄門の前に立ち、自らの右腕の肘関節を力任せに逆方向へ叩き折った。
バキッ、と嫌な破壊音が静寂の坑道に響く。
「……ッハ、あ……ぁあッ!」
脳髄を突き刺す激痛。視界が明滅し、過剰修復の熱線が身体の内側から血を煮立たせる。
その破壊の衝動を引き金として、ルシアンは折れた右腕をそのまま目の前の鉄門へ叩きつけた。
ドォンッ!!
爆発的な力で歪み、吹き飛ぶ鉄門。
奥の地下通路にいた教団の警備兵たちが、驚愕の声を上げる。
「何者だ!? 東区画の襲撃者か!?」
「待て……ガキが一人のみ……!? うわっ、腕が折れて——」
「……邪魔だ」
ルシアンの濁った瞳が教団兵たちを捕らえる。
痛みに歪む顔をそのままに、引きちぎれかけた肉体を強引に『我が至高なる存在』で繋ぎ止め、弾丸のような速度で前進する。
「撃て! 射殺しろ!!」
雨のように放たれる魔導槍の熱線。
ルシアンの胸が穿たれ、腹が削れ、内臓が露出する。だが、止まらない。
激痛に喉を潰しそうな絶叫をあげながらも、ルシアンはそのまま教団兵の首を掴み、壁へと叩きつけて肉塊へと変えた。
「ヒッ……化け物……! 痛みを感じていないのか!?」
「ちがう……絶叫しながら……自分の体を壊して向かってきている……!?」
敵の恐怖と悲鳴すら、今のルシアンにはただの雑音に過ぎなかった。
肉が削削げれば骨を折り、骨が砕ければ強引に過剰修復させてその出力を攻撃へと転換する。自傷と再生の無限ループ。
「僕をただの兵器として使おうとした『黒の天秤』も……」
ズバッ、と背後から斬りつけられた剣を、ルシアンは背中の肉で挟み込んで固定し、そのまま振り向いて相手の頭部を破砕する。
「僕を実験体として踏みにじったお前たち教団も……全員、僕の復讐の薪になれ」
教団の聖堂地下は、瞬く間に血と肉片が飛び散る惨殺の場へと変わっていった。
ただ一人の少年——心を殺し、肉体を壊し続ける「傲慢の怪物」の手によって。
ルシアンは血みどろの足取りで、教団の中枢、ヴァルターたちが待ち受ける上層へと続く階段を一歩一歩踏みしめて上っていく。




