第二十六話 絆の崩落
ズドォォォォンッ!!!!!
爆風と土煙が水路の入口を完全に呑み込んだ。
折れ曲がった巨大な石柱が地面に叩きつけられ、激しい衝撃波がルシアンの体すら数メートル後ろへと吹き飛ばす。
「ぐっ……ぁ……っ!」
泥と血に塗れながら、ルシアンは倒れたまま顔を上げた。
視界を覆う白い砂塵の中、水路の入口は巨大な瓦礫の山によって完全に塞がれていた。
「……ハぁ……ハぁ……ッ」
瓦礫の隙間から、途切れ途切れの咳き込む声が聞こえる。
「おい……みんな、無事か……っ!?」
ガルドの声だった。
泥だらけの身体を起こしたガルドが、必死に瓦礫をどけようと血の滲む手で岩にしがみついている。その奥から、先ほどの若者たちが、全身を打撲しながらも命からがら這い出てきた。
「ガルドさん……っ! なんとか、みんな……生きてます!」
「レイラ! レイラはどこだ!?」
ガルドが叫ぶと、少し離れた瓦礫の影から、膝を強く打った様子の少女——レイラが、仲間の青年に肩を貸されながらゆっくりと姿を現した。
「私……大丈夫です……っ! 足を少し挫いただけで……」
「良かった……神様、感謝します……っ!」
若者たちは抱き合い、流れる涙を拭いもせずに笑い合った。
目の前で巨大な崩落が起き、死の直前まで追い詰められながらも、奇跡的に「全員」が生き残ったのだ。
お互いの無事を確かめ合い、絆をさらに強固なものにした彼らの顔には、どんな過酷な運命にも打ち勝てるという、眩しすぎるほどの「生の希望」が満ちあふれていた。
「少年……! お前も無事だったか!」
ガルドが振り返り、血みどろで横たわるルシアンへ駆け寄ろうとする。その瞳には、かつての警戒感は一切なく、同じ死線を潜り抜けた「仲間」を見るような温かい光が宿っていた。
「来い、少年! 水路の奥はまだ繋がっている! 俺たちと一緒にここを抜けて、外の世界へ——」
「……触るな」
ルシアンは冷ややかにその手を振り払った。
「気安く僕に話しかけるな。気味の悪い絆ごっこなら、他所でやれ」
「少年……お前……」
ガルドは困惑したように立ち尽くした。
ルシアンは己の右腕の骨を内部から『変形修復』で強引に繋ぎ直し、激痛に歯を食いしばりながら泥の中から立ち上がった。
(関わるな……関わるな……)
ルシアンは胸の奥で、自分自身に強く言い聞かせる。
こんな弱者どもの集まりに情を抱けば、最後に壊れるのは自分だ。彼らがどれだけ希望に目を輝かせようが、生きて帰れると信じ込もうが、自分には関係のないことだ。
……だが、ルシアンの冷徹な思考を嘲笑うかのように。
広場の奥から、冷酷な二つの影が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきていた。
一人は、肩から血を流しながらも、一切の表情を変えずに聖剣を握り直す『剣聖』ヴァルター。
もう一人は、教団の秘術によってドレスを切り裂かれながらも、狂気的な笑みを浮かべる【嫉妬】のレヴィアタン。
二人の怪物の視線が、崩落の隙間で「生き残りを喜んでいた」ガルドたちへと、同時に向けられた。
大罪者と異端審問官。
二人の理不尽な強者が交錯するこの最悪の戦場で、束の間の奇跡に歓喜した哀れな人間たちに、本物の絶望が忍び寄っていた。




