第二十四話 交錯する凶刃
聖導教団の異端審問官を率いる『剣聖』ヴァルターが放った聖剣の閃光が、広場の湿った空気を一刀両断する。
「——退け、魔女」
ガキィィンッ!! と凄まじい金属音が響き渡り、ヴァルターの剣撃がレヴィアタンの展開した『嫉妬』の不可視の障壁と激突した。
衝撃波だけで周囲の石畳が粉々に砕け、雨粒すらも弾き飛ばされる。
「人間ごときが……調子に乗らないでよ!」
レヴィアタンが細い指を弾くと、空間が歪み、彼女の周囲の空間そのものが「掠奪」の力でえぐり取られた。だが、ヴァルターは神技の如き身のこなしでそれを紙一重で回避し、瞬時に懐へと踏み込んで聖剣の柄でレヴィアタンの腹部を強打する。
大罪者と教団の精鋭。互いが互いを「害すべき異物」として認識し、容赦のない殺し合いが繰り広げられていた。
その混沌の戦場の隅で。
「くそっ……! 何が起きてやがる!?」
ガルドたちレジスタンスの生き残りたちは、崩れた排水口の陰から息を殺して戦況を見つめていた。
正面の教団部隊と大罪者が潰し合っているこの状況は、彼らにとってまたとない脱出のチャンスだった。
「今だ……! あの化け物たちがやり合ってる隙に、この水路を抜けて全員で脱出するぞ!」
ガルドが仲間たちに合図を送る。
その顔には、死地を脱した安堵と、「自分たちは生き延びたんだ」という確かな希望の色が浮かんでいた。仲間の一人の少女が、緊張の糸が切れたようにホッと小さく息を吐き、ガルドの袖を引っ張って笑みを見せる。
「ガルドさん……私たち、本当に生きて街を出られるんだね」
「ああ、そうだ。あの少年の囮のおかげ……いや、俺たちが最後まで諦めなかったからだ」
レジスタンスの若者たちの間に、束の間の歓喜と連帯感が満ちていく。
互いに肩を叩き合い、「生きて帰ったら酒を飲もう」「街を再建しよう」と、未来への希望を語り合う彼らの表情は、紛れもなく輝いていた。
――だが。
その、あまりにも無邪気な希望のやり取りを、泥まみれになりながら這いずっていたルシアンの冷めた瞳が捉えていた。
(……バカどもめ)
ルシアンは心の中で、吐き捨てるように嘲笑った。
あんな風に未来を語り、絆を確かめ合ったところで、この理不尽な世界では薄いガラス細工のように一瞬で踏み潰されるというのに。
……そう、これから訪れる本当の絶望も知らずに。
広場の中心で、ヴァルターの聖剣がレヴィアタンの肩を深く切り裂き、鮮血が舞う。
しかし、レヴィアタンも負けじとヴァルターの腕を『羨望される世界』でえぐり取り、互いに致命傷を与え合う泥沼の消耗戦へと突入していた。
最強の二人が潰し合う、その圧倒的な暴力の余波が、ガルドたちの隠れる一帯へと静かに、しかし確実に迫りつつあった。




