第二十三話 水底の三つ巴
「……不快ね」
レヴィアタンは、自らの足元で蠢くルシアンの肉片を見下ろしながら、冷ややかな吐息を漏らした。
彼女のユニークスキル『羨望される世界』は、対象の肉体や存在そのものを容赦なく奪い取る。だが、ルシアンの『我が至高なる存在』は、奪われた端から激痛とともに不気味な再生を繰り返し、彼女の足元に血塗れの泥人形のように這い上がってくる。
「死ねない、壊せない、ただただ醜く足掻くだけの肉の塊……。そんなものに価値なんてあるのかしら?」
レヴィアタンが瑠璃色の瞳を細め、さらに強力な掠奪の波長を解き放とうとした、その時だった。
ゴォォォンッ!!!!!
頭上を覆う水上都市レヴィアの石造りの天井が、突如として粉々に爆散した。
「なっ……!?」
降ってきたのは、降りしきる雨と、純白の聖印が刻まれた無数の鉄柱。
空から降り立った者たちが、重力を無視するかのように広場の周囲を取り囲む。その胸元には、聖導教団の最高位を示す紋章が掲げられていた。
聖導教団——異端審問官の精鋭部隊。
「見つけたぞ、『傲慢』の宿主ルシアン。そして、神の秩序を乱す大罪の魔女レヴィアタンめ」
冷徹な声とともに、部隊の先頭から一人の男がゆっくりと歩み出た。
抜身の聖剣を携え、冷酷な美しさを湛えた異端審問官——『剣聖』ヴァルター。
彼はルシアンを回収し、大罪の因子を管理するという教団の至上命題を果たすため、そして水底に巣食う大罪を根絶するために、この都市へ踏み込んできたのだ。
「教団の犬ども……! 私の街に勝手に土足で踏み入るなんて、いい度胸ね」
レヴィアタンの顔に、初めて明確な怒りと苛立ちが走った。
彼女にとって人間など虫けらにすぎないが、自分の領域を勝手に荒らされることは、彼女の持つ『嫉妬』の独占欲を激しく逆撫でしていた。
「神の教えに背く異端どもに、語る言葉などない。……制裁する」
ヴァルターが冷たく言い放ち、聖剣を掲げた瞬間、水上都市レヴィアの広場は、大罪の化身と教団の精鋭、そして死ねない異形が入り交じる、地獄のような混沌の戦場へと変貌した。




