第十八話 水面下の結託
「……水上都市レヴィア」
その名を聞いた瞬間、僕の喉の奥が引きつった。
教団の補給線であり、厳重な警備が敷かれた水上要塞。そして何より、僕の中に眠る『概念』が警告するように、そこには二つ目の大罪——【嫉妬】の因子を持つ存在が潜んでいる。
片目の男——レジスタンスのリーダーであるガルドは、僕の警戒を解くように両手を広げてみせた。
「そうだ。俺たちはレヴィアの教団施設を叩き、奪われた同胞や物資を取り戻す計画を立てている。だが、あの街の警備は異常だ。教団兵の数も多いうえ、街を統治している『あの女』が立ち塞がる」
「あの女……?」
「レヴィアの統治者、レヴィアタンだ。教団と結託し、街の住人を人間扱いしていない狂人さ」
【嫉妬】の大罪者、レヴィアタン。
彼女のユニークスキルの詳細までは分からない。だが、大罪の名を冠する以上、『暴食』のゴルドーと同じく、あるいはそれ以上の理不尽で狂った能力を持っているはずだ。
「少年、お前のその異様な力……『死ねない肉体』と『血の弾丸』の噂は耳にしている」
ガルドが真剣な眼差しで僕を見つめる。
「俺たちに協力してくれ。お前が正面から教団の注意を引く『囮』となってくれれば、俺たちが地下水路から潜入し、施設を内部から爆破できる。見返りに、レヴィアを抜けて教団本部へ向かう極秘の抜け道を教えてやる」
「……囮、か」
僕は自嘲気味に呟いた。
要するに、生きて帰れる保証のない「死体役」になれということだ。
彼らの瞳の奥には、僕に対する微かな恐れと、「使える駒」として利用しようとする計算が見え隠れしている。
かつての僕なら、裏切りや利用されることに絶望していただろう。だが、今の僕にとって、そんな人間の浅はかな意図はどうでもよかった。
互いに利用し合うだけの関係。それくらいが一番心地いい。
「いいよ」
僕は冷ややかに頷いた。
「ただし、僕が教団を引きつけている間にしくじったら、君たちを真っ先に血弾で撃ち抜く」
「……フッ、交渉成立だな」
ガルドは苦笑いを浮かべながらも、その手に握られた粗悪な剣を強く握り直した。
レジスタンスの仲間たちは、魔法や洗練されたスキルを持たない平民や逃亡兵の集まりだ。彼らは自分たちの命を賭けて、本気で街を取り戻そうとしている。
彼らがこれからどんな無惨な末路を辿るのか、僕には容易に想像がついた。大罪者や教団の精鋭の前に、こんな平民たちの絆など、薄いガラス細工のように粉々へ砕かれるだけだ。
(救わない。誰も、救うものか)
僕は胸の奥で冷たく言い聞かせる。
水上都市レヴィアへの潜入準備が始まった。
暗く湿った地下空洞で、僕は再び自分の掌に爪を立て、血の感覚を確かめる。
仲間という名の「使い捨ての戦術兵器」を引き連れ、僕は二つ目の地獄——水上都市レヴィアへと向かって足を踏み出した。




