第十四話 拘束と封印の楔
「——『神聖拘束・百閃』」
静寂。
僕が『血骨弾』の反動による激しい貧血と全身の喪失感に苛まれていた、ほんの一瞬のことだった。
ヴァルターの影が消え、視界全体が眩い青白い光の線で埋め尽くされる。
激痛すら遅れてやってきた。
シュパンッ、という澄んだ切断音が百回重なったような錯覚。
次の瞬間、僕の両手足、両肩、膝、そして背骨の節目が無数の細い刃で正確に穿たれ、切開されていた。
「が、ぁ……っ!?」
『我が至高なる存在』が即座に反応し、切断された肉体を繋ぎ合わせようと強烈な引き寄せのエネルギーを放ち始める。
しかし——
「無駄だ。我が教団の『聖楔』は、魔力や生体エネルギーの循環を強制的に阻害・遮断する」
ヴァルターが冷たく言い放つ。
僕の切開された主要な関節や傷口には、教団特製の銀色の杭——『聖楔』が深く打ち込まれていた。
「あ、が……あぁぁぁぁぁッ!!!」
肉体が「元に戻ろう」として激しく収束しようとする力と、『聖楔』がそれを強引に物理・概念的に押し広げて阻む力が、傷口の内部で激しく衝突する。
繋がろうとしては引き裂かれ、塞がろうとしては楔に削られる。
永遠に終わらない、傷口の内部での無限の破壊と修復の鬩ぎ合い。
(痛い痛い痛い痛い痛いッ!! 治らない……治ろうとしてるのに、激痛が……止まらないッ!!)
「ぐあぁぁぁぁぁっ! 抜け……抜いてくれぇぇぇッ!!」
泥の中で七転八倒しながら、僕は叫び狂った。
ただ切り刻まれるよりも惨い。修復の引き込みエネルギーがそのまま自分自身の肉体を絞め殺す拷問となり、脳の奥底まで灼き尽くしていく。
「見苦しいな。『傲慢』の宿主よ」
ヴァルターは冷徹な眼差しで僕を見下ろし、腰から頑丈な漆黒の呪符が貼られた鎖を取り出した。
彼は僕の身寄りのない、傷口から絶え間なく血を撒き散らす体を、物言わぬ荷物のように強引に縛り上げていく。
「これより貴様を教団の本部地下、第7異端収容施設へと護送する。そこには貴様のような異形を研究し、永遠の苦痛の中で無力化するための設備が揃っている」
「嫌だ……やめろ……放せ……ッ!」
血の反吐を吐き出しながら抵抗しようとするが、四肢に打ち込まれた『聖楔』のせいでまともに力を込めることもできない。
血弾を放とうにも、体内の血圧を高めた瞬間に『聖楔』の刺さった傷口から弾け飛び、ただ自分が激痛に襲われるだけだった。
「連れて行け」
ヴァルターの指示とともに、森の奥から合流した教団の重装兵たちが、巨大な鉄の籠を引きずってきた。
僕は肉塊のようにその中へ放り込まれ、頑丈な鉄格子が重々しい音を立てて閉ざされる。
鉄格子の隙間から見えたのは、灰色の冷たい空と、僕をかばって命を落とした傭兵たちの無惨な屍だけだった。
逃げられない。
勝てない。
自分の弱さと、世界の理不尽さが、深く重く僕の胸を刺し穿つ。
ガタゴトと馬車が揺れ始め、僕は激痛と絶望の暗闇の中へと運ばれていった。




