第十三話 千切る刃と死への拒絶
「あガっ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
刃の雨が、僕の肉体を容赦なく細切れに変えていく。
肩が跳ね飛び、胸肉が抉られ、腹が幾重にも切り刻まれて内臓が飛び散る。
右腕が三つに切断され、顎が砕かれ、舌が引きちぎられた。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛いッ!!
前世のぬるま湯のような人生で、指先をカッターナイフで切っただけの痛みにすら泣きそうになっていた僕が、いま、全身を挽き肉のように刻まれている。
(死にたい……! 頼むから死なせてくれ……っ!)
意識を失うことすら許されない。
脳が切り刻まれた瞬間にさえ、あの不快で冷酷なスキルが強制的に発動し、僕の神経と記憶を強引に繋ぎ止める。
——我が肉を刻み、塵となすか。
——無知なる豚が。その不遜、万死をもって贖え。
【ユニークスキル:『我が至高なる存在』発動】
「……ほう。原型を留めぬほど細切れにしても、修復の概念は淀みなく働くか」
ヴァルターの冷ややかな感心するような声。
地面に撒き散らされた僕の肉片、飛び散った大量の血、へし折られた骨の破破片たちが、猛烈な磁力に引かれるように蠢き始めた。
肉と肉が擦れ合い、骨が噛み合い、強引に結合していく摩擦熱と激痛。
「ぐ、あぁぁぁぁぁッ……!!!」
再生の途上、僕は狂ったように目を見開いた。
このまま元通りに治っても、またヴァルターの『剣聖』の技で一瞬にして刻まれるだけだ。
完璧に治るのを待つな。
修復のエネルギーが、引き千切られた肉と血を呼び戻している「その最中」に、全てを賭けろ!
「ヴァルターぁぁぁぁぁッ!!」
完全に繋がり切っていない、骨が露出し皮膚が裂けたままの右手を、引き寄せの力に乗せてヴァルターの顔面へと突き出す。
手首の断面から飛び散る血。
僕はその血に、残された全神経を注ぎ込み、修復のベクトルを力任せに捻じ曲げた。
ただの血弾じゃない。
体外に飛び散っていた自分の「砕けた骨の破片」を、高圧の血とともに散弾のように撒き散らす変形修復——『血骨弾』!
ドバババババッ!!
「ぬ……っ!?」
至近距離での肉体爆砕のような反射攻撃。
さしのヴァルターも、修復中の肉片から骨が弾丸となって飛んでくるとは予動できなかった。
顔面を庇うように構えた細身の剣と白銀の甲冑に、ガツンガツンと激しい金属音が響き、甲冑の胸部が大きく凹む。
「ぐ、はっ……!」
だが、弾丸として骨と血を撒き散らした代償は、僕の体を根底から破壊した。
全身の骨密度が急激に低下し、激しい貧血と失血ショックで視界が真っ赤に染まる。
「くっ……よくも、この甲冑を損壊させてくれたな」
ヴァルターが数歩後退し、冷酷な瞳にわずかな不快感を滲ませた。
彼の頬には、砕けた骨の破片が掠めた小さな傷から、一筋の血が伝っていた。
しかし、傷はその程度だ。
僕が全身を爆破させるような自傷と激痛を払って得た戦果が、相手の頬への小さなかすり傷一つ。
圧倒的な絶望的な実力差。
「もう戯れは終わりだ。『我が至高なる存在』の修復速度すら超える一撃で、貴様を教団の封印牢へ運ぶ」
ヴァルターが剣を低く構える。
その全身から放たれる青白い魔力が、渦を巻くように跳ね上がった。
もはや、抵抗する術などどこにも残っていなかった。




