第4話 羊羹と『大人って、いいかも』
土曜日。
午後八時。
「お疲れさまでしたー!」
仕事終了。
河合菜々子、33歳。
明日は休み。
いつもの。
ご褒美の日。
でも。
今日のスイーツは。
いつもと。
少し違う。
洋菓子。
ではない。
スーパーを出て。
菜々子が向かったのは。
昔からある。
小さな和菓子屋。
「こんばんはー」
店に入る。
並んでいる。
饅頭。
最中。
どら焼き。
季節の生菓子。
「…………」
どれも。
美味しそう。
でも。
今日。
菜々子の目が止まったのは。
羊羹。
艶のある。
濃い小豆色。
「羊羹かぁ」
普段。
自分で買うことは。
そんなにない。
もらえば。
食べる。
そして。
食べれば。
美味しい。
でも。
今日は。
なんとなく。
これ。
「この羊羹、一つください」
購入。
店を出る。
紙袋。
見る。
「…………」
さて。
何を。
合わせよう。
少し考える。
小豆。
しっかりした甘さ。
和菓子。
だったら。
「日本酒かな」
決定。
酒屋へ。
今日は。
すっきりしたものより。
少し。
旨みのあるもの。
小さな瓶を。
一本。
「これにしよ」
羊羹。
日本酒。
準備。
完了。
◇
帰宅。
「ただいまー」
羊羹。
置く。
日本酒。
冷蔵庫。
そして。
部屋の隅。
エクササイズマット。
――バサッ。
仕事着。
そのまま。
首。
タオル。
頭。
タオルバンダナ。
――キュッ。
スマホ。
推し。
再生。
――♪
「エクササイズ、スイッチオン!」
ステップ。
ステップ。
腕。
上。
横。
ひねる。
「いち、にっ!」
今日も。
動く。
――♪
頭に浮かぶ。
羊羹。
日本酒。
「…………」
我ながら。
渋い。
33歳。
休み前。
推しの曲で。
汗をかいて。
そのあと。
羊羹で。
日本酒。
「ふふっ」
悪くない。
むしろ。
楽しみ。
――♪
腕。
伸ばす。
脚。
上げる。
ステップ。
ステップ。
汗。
首のタオルで。
拭く。
一曲。
終了。
「もう一曲!」
――♪
推し。
最高。
羊羹。
待ってる。
日本酒も。
待ってる。
菜々子。
動く。
――♪
終了。
「はぁーっ!」
タオルバンダナ。
外す。
「今日も頑張った!」
お風呂。
シャワー。
髪を乾かす。
お気に入りの部屋着。
今日も。
シンプル。
色だけ。
少し可愛い。
そして。
夕飯。
ちゃんと。
食べる。
でも。
お腹いっぱいには。
しない。
「ごちそうさま」
片付け。
終了。
ここから。
私の幸せは。
さらに。
高まる。
◇
「さて」
紙袋。
開ける。
箱。
取り出す。
羊羹。
包みを開く。
「おお……」
艶。
つるん。
濃い。
小豆色。
「綺麗」
包丁。
入れる。
すっ。
一切れ。
少し。
厚め。
皿へ。
もう一切れ。
「…………」
いや。
まずは。
一切れ。
日本酒。
冷蔵庫から。
取り出す。
グラスへ。
トクトクトク……。
羊羹。
日本酒。
並ぶ。
「なんか……」
渋い。
でも。
ちょっと。
格好いい。
まず。
日本酒。
キュッ。
「ん」
旨み。
ふわっ。
そして。
羊羹。
楊枝で。
小さく。
切る。
一口。
パクッ。
「…………!」
しっかり。
甘い。
でも。
ただ甘いだけじゃない。
小豆。
ちゃんと。
いる。
舌触り。
なめらか。
「美味しい」
もう一口。
パクッ。
そして。
日本酒。
キュッ。
「…………!」
羊羹の。
甘さ。
小豆の。
余韻。
そこへ。
日本酒。
「おお……」
合う。
フォンダンショコラの時とは。
また。
違う。
和。
和。
完全に。
同じ方向。
なのに。
日本酒を飲むと。
また。
羊羹が欲しくなる。
パクッ。
キュッ。
「ん~~~~っ!」
両腕。
ぐーーーーっと。
上へ。
脚。
ぴーーーーん。
和菓子でも。
もちろん。
伸びる。
「しあわせぇ……!」
菜々子は。
羊羹を見る。
日本酒を見る。
「これ……」
もう一口。
パクッ。
キュッ。
「いいなぁ」
ケーキ。
好き。
パフェ。
好き。
チョコ。
大好き。
でも。
和菓子と。
日本酒。
休み前。
一人。
ゆっくり。
楽しむ。
こういう時間も。
「…………」
菜々子は。
グラスを持つ。
少し。
笑う。
「大人って、いいかも」
33歳。
十分。
大人。
だけど。
こういう大人なら。
悪くない。
羊羹。
最後の一口。
パクッ。
日本酒。
キュッ。
「ん~~~~っ!」
両腕。
上。
脚。
ぴーん。
「しあわせぇ……!」
甘いものは。
洋菓子だけじゃない。
幸せだって。
一つじゃない。
菜々子は。
空になった皿を見る。
そして。
笑う。
「甘いは幸せ」
河合菜々子。
33歳。
今週は。
ちょっと渋めの。
至福の休日。




