第2話 フォンダンショコラと『本職さんすごい』
土曜日。
午後八時。
「お疲れさまでしたー!」
河合菜々子、33歳。
本日の仕事。
終了。
そして。
明日は休み。
スーパーの従業員用出入口を抜ける。
「さて」
今日のスイーツは。
もう。
決まっている。
先週。
苺のショートケーキを買った。
あの洋菓子店。
そのショーケースに。
もう一つ。
気になるものがあった。
フォンダンショコラ。
あの日は。
苺ショートって。
決めていたから。
買わなかった。
でも。
一週間。
頭の片隅に。
ずっと。
残っていた。
「気になってたんだよね」
菜々子は。
先週と同じ洋菓子店へ向かう。
店に入る。
ショーケース。
覗く。
「…………」
あった。
濃い茶色。
見るからに。
チョコ。
「よし」
今日は。
迷わない。
「フォンダンショコラ、一つください」
購入。
そして。
次。
お酒。
今日は。
こっちも。
決めている。
日本酒。
理由は。
先週。
何気なく見ていた。
ワイドショー。
デパ地下特集。
そこで。
ショコラティエが。
チョコレートと。
日本酒を。
合わせていた。
「チョコに日本酒?」
正直。
意外だった。
チョコなら。
ワイン。
そんなイメージだったから。
でも。
本職のショコラティエが。
合わせている。
だったら。
「試してみたいよね」
酒屋へ。
日本酒の棚。
見る。
「…………」
種類。
多い。
甘口。
辛口。
芳醇。
淡麗。
「うーん……」
菜々子は。
一本ずつ。
ラベルを見る。
そして。
説明を読む。
その中から。
香りと甘みのありそうな。
小さめの一本。
手に取る。
「今日はこれ」
フォンダンショコラ。
日本酒。
今夜の。
ご褒美。
決定。
帰宅。
「ただいまー」
靴を脱ぐ。
バッグを置く。
上着を脱ぐ。
フォンダンショコラ。
冷蔵庫へ。
日本酒も。
冷蔵庫へ。
「…………」
食べたい。
でも。
まだ。
部屋の隅。
いつもの。
エクササイズマット。
――バサッ。
仕事から帰ってきた服。
そのまま。
首に。
タオル。
もう一枚。
頭へ。
キュッ。
タオルバンダナ。
鏡。
確認。
「よし」
スマホ。
タップ。
もちろん。
推しの曲。
――♪
イントロ。
菜々子の口元が。
上がる。
「エクササイズ、スイッチオン!」
ステップ。
ステップ。
腕。
上。
横。
身体を。
ひねる。
「いち、にっ!」
――♪
リズムに合わせて。
動く。
腕を伸ばす。
脚を上げる。
「ふっ!」
頭に浮かぶ。
フォンダンショコラ。
日本酒。
「…………」
どんな味。
するんだろ。
ステップ。
ステップ。
「いち、にっ!」
気になる。
だから。
動く。
――♪
一曲。
終了。
額に。
汗。
首のタオルで。
拭く。
「ふぅー!」
スマホを見る。
もう一曲。
いける。
「よし!」
――♪
動く。
踊る。
汗をかく。
推しの曲。
楽しい。
身体を動かすのも。
嫌いじゃない。
そして。
このあとには。
甘いもの。
お酒。
全部。
楽しむ。
――♪
曲。
終了。
「はぁーっ!」
両手を。
膝につく。
「頑張った!」
タオルバンダナ。
外す。
首のタオル。
外す。
そのまま。
お風呂へ。
シャワー。
汗を流す。
髪を乾かす。
お気に入りの。
部屋着。
形は。
シンプル。
色は。
少しだけ。
可愛い。
「うん」
そして。
夕飯。
ちゃんと。
食べる。
でも。
お腹いっぱいには。
しない。
今日も。
このあとが。
あるから。
「ごちそうさま」
片付ける。
洗い物。
終了。
「…………さて」
ここから。
私の幸せは。
さらに。
高まる。
冷蔵庫。
オープン。
「お待たせ」
フォンダンショコラ。
日本酒。
登場。
でも。
その前に。
フォンダンショコラを。
少しだけ。
温める。
待つ。
そして。
テーブルへ。
皿に。
フォンダンショコラ。
横には。
冷たい日本酒。
「…………いい」
まず。
フォンダンショコラ。
フォーク。
入れる。
すっ。
中から。
とろっ。
「…………!」
チョコレート。
流れた。
菜々子の目が。
輝く。
「これは……ずるい」
ひと口分。
フォークへ。
「いただきます」
パクッ。
「…………!」
濃い。
甘い。
温かい。
とろっとした。
チョコレートが。
口いっぱいに。
広がる。
ほろ苦さも。
少し。
そして。
「ん~~~~っ!」
両腕。
ぐーーーーっと。
上へ。
脚も。
ぴーーーーん。
身体いっぱい。
伸びる。
「しあわせぇ……!」
戻る。
フォンダンショコラを見る。
「これ好き」
もう一口。
……の前に。
今日。
やりたかったこと。
日本酒。
グラスへ。
トクトクトク……。
透明。
冷たい。
まず。
そのまま。
キュッ。
「ん」
香り。
ふわっ。
口の中に。
やわらかな甘み。
「これも美味しい」
でも。
問題は。
ここから。
フォンダンショコラ。
パクッ。
甘い。
濃い。
チョコレート。
その余韻が。
口に残っているうちに。
日本酒。
キュッ。
「…………」
止まる。
菜々子の目が。
少し。
大きくなる。
「…………え?」
もう一度。
フォンダンショコラ。
パクッ。
日本酒。
キュッ。
「…………合う」
チョコレートの。
濃い甘さ。
ほろ苦さ。
そこへ。
日本酒の。
香り。
甘み。
口の中で。
ちゃんと。
一緒になる。
「へぇー……」
菜々子は。
フォンダンショコラを見る。
日本酒を見る。
そして。
一言。
「本職さん、すごい」
ショコラティエ。
疑って。
すみませんでした。
パクッ。
キュッ。
「ん~~~~っ!」
両腕。
ぐーーーーっ。
脚。
ぴーーーーん。
「しあわせぇ……!」
パクッ。
キュッ。
甘い。
飲む。
また。
甘い。
「これ……」
楽しい。
菜々子は。
フォンダンショコラを。
少しずつ。
日本酒も。
少しずつ。
交互に。
楽しむ。
急がない。
明日は。
休み。
時間は。
たっぷり。
ある。
最後。
フォンダンショコラ。
ひと口。
フォークへ。
「…………」
名残惜しい。
でも。
パクッ。
「ん~~~~っ!」
両腕。
上。
脚。
ぴーん。
今日一番。
身体いっぱい。
伸びる。
「しあわせぇ……」
そして。
日本酒。
キュッ。
「はぁ……」
満足。
先週。
気になっていた。
フォンダンショコラ。
テレビで。
気になっていた。
チョコと日本酒。
両方。
試した。
そして。
両方。
正解。
菜々子は。
空になった皿を見る。
笑う。
「甘いは幸せ」
河合菜々子。
33歳。
今週も。
至福の休日。
始まります。




