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世界1位への熟練度(レベリング) 〜家族を守るために「剣術」を極めた俺が、世界を買い叩くまでの物語〜  作者: しろくま


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8/12

黄金の味と、守るべき背中



 新宿歌舞伎町の一角に建つ、巨大な黒硝子のビル。探索者ギルド・新宿本部のエントランスは、夕暮れ時特有の熱気と、帰還したばかりの探索者たちが放つ、独特の鉄臭い空気で満ちていた。

 自動ドアが開くと同時に、ロビーの喧騒が湊と剛の鼓膜を叩く。二人の姿は、その中でも異彩を放っていた。


 ボロボロに引き裂かれた汎用防護服。随所にこびりついた乾いた返り血。そして何より、湊の背中に背負われた、鈍い光沢を放つ『黒鋼の重剣』。

 ロビーにいた探索者たちが、次々と足を止め、二人を凝視する。


「おい、見ろよ……あの背中の剣、Rank:Dのボスドロップじゃねえか?」

「嘘だろ。あんな安物の防具の奴らが、5層エリートを……?」

「……いや、あの大男の方か? 盾は砕けてるが、あれは『城塞騎士』の雰囲気だぞ」


 ひそひそとした囁きが波のように広がる。普段なら、湊はこうした周囲の視線を避けるように俯いて歩いただろう。これまでの彼は、この弱肉強食の世界で「持たざる者」として息を潜めて生きてきた。

 だが、今は違う。右手の掌に残る、あの『受け流し』の瞬間に感じた世界のルールを掌握した感覚。そして、隣で巨体を揺らしながら誇らしげに歩く剛の存在。それが、湊の背筋を自然と伸ばさせていた。


「次の方、査定カウンターへどうぞ」


 無機質な受付嬢の呼び出しに応じ、二人はカウンターへと進む。湊は肩に食い込んでいたバックパックを下ろし、その中身を無造作に放り出した。

 ガラン、と重厚な音を立てて転がったのは、5層ボスの証である巨大な魔石。そして、拍動するかのような魔力を放つ『エリートの心臓』だ。


「……ッ!?」


 受付嬢の指が止まった。彼女は一度湊の顔を見上げ、次に横の剛を見、そして再び『心臓』へと視線を落とした。

 奥から、白衣を着たベテランの査定員が慌てて駆け寄ってくる。彼は鑑定用のモノクルを装着すると、震える手で心臓を調べ始めた。


「……信じられん。傷一つない、完璧な摘出だ。心臓の魔力回路が完全に生きておる。君たち、これをどうやって……? 大抵のパーティーは力任せに心臓を傷つけてしまうものだが」


「……無駄なことをしないように気をつけただけです」


 湊は、いつもの人懐っこい笑みを浮かべて答えた。

 嘘ではない。熟練度2.00%に達した彼には、ボスの解体においてさえ「最も正しい刃の入れ方」が視えていたのだ。余計な傷をつけないことは、そのまま買取額に直結する。生活のかかった湊にとって、それは技術以前の執念だった。


 査定員がモニターを叩く。ロビーの大型モニターに、二人の査定額が映し出された。


【査定合計:382,000円】


 一瞬、ロビーが静まり返った。

 数ヶ月間、小銭を稼ぐために必死だった湊にとって、それは文字通りの「黄金」だった。今の日本で、一般市民が数ヶ月かけて稼ぐ額を、二人はたった一日で、それも数時間の探索で手に入れたのだ。


「……湊、これ。夢じゃねえよな?」


 剛が太い指でモニターを指差し、声を震わせている。


「ああ、剛。現実だよ。……これで、あいつらに約束してたものを食べさせてやれる」


---


 一時間後。新宿のメインストリートから少し外れた、路地裏に佇む一軒の老舗焼肉店。

 店内に漂う、香ばしいタレと炭火の匂い。その入り口で、湊の弟である陽太と、妹の結菜は、信じられないものを見るかのように立ち尽くしていた。


「……兄ちゃん、本当にここなの? ここ、テレビでやってた『特上』とかいうやつのお店だよ?」


 中学生の陽太が、自分の擦り切れたスニーカーと店構えを見比べながら、湊の袖を強く引く。小学生の結菜も、湊の隣に座る剛の圧倒的な巨体に目を丸くしている。


「いいんだよ。今日は、兄ちゃんの新しい相棒の剛さんも一緒だ。ほら、好きなだけ頼め。今日だけは、値段を見なくていいから」


 湊の言葉に、剛が「ガハハ!」と豪快に笑い、メニューを陽太に差し出した。

 運ばれてきたのは、これまでスーパーの「賞味期限間近の半額シール」が付いた細切れ肉しか見てこなかった二人には、想像もつかないほど美しい、サシの入った特上カルビ。


 網の上で肉が躍り、滴る脂が炭を叩いて芳醇な煙を上げる。

 陽太が、震える手で最初の一切れを口に運んだ。

 その瞬間、彼の動きが止まった。


「……おいしい。兄ちゃん、これ、溶ける……っ!」


 陽太の大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちた。

 結菜も、頬をパンパンに膨らませながら、「おいひい、おいひいよぉ……」と声を詰まらせ、夢中で肉を頬張っている。


 両親を失って以来、湊が文字通り泥を舐め、時には食事を抜いてまで繋いできた二人の命。

 焼肉なんて、最後に食べたのはいつだったか。親が生きていた頃の誕生日に、無理をして連れて行ってもらったのが最後だ。

 あの時と同じ、いや、それ以上に輝いて見える肉。それが、今の湊が自分の『力』で手に入れたものだという事実が、二人の心を震わせていた。


「陽太、結菜。……今まで、苦労かけてごめんな。兄ちゃん、もっともっと強くなるから。これからは、もっと美味しいもの、いっぱい食べさせてやるからな」


 湊の声も、わずかに震えていた。

 二人は何度も頷きながら、一心不乱に肉を、白米を口に運ぶ。

 その光景を、隣で黙々と肉を焼いていた剛が、じっと見つめていた。


「……剛さん?」


 湊が声をかけると、剛は慌てて目を擦った。その無骨な手の甲が、濡れている。

 剛の大きな目には、隠しようもないほどの涙が浮かんでいた。


「……いや、悪い。お前らの家族見てたら、なんかよ……。俺も、なんのために盾を持って戦ってるのか、思い出した気がしてな」


 剛は、自分の分として焼いていた一番いい肉を、そっと結菜の皿に置いた。


「食え、お嬢ちゃん。俺が湊の横で盾を構えてる限り、お前らは一生食いっぱぐれねえ。俺が保証してやるよ。俺の職業は、誰かを守るための『城塞騎士』だからな」


「……ありがとう、大きいお兄ちゃん!」


 結菜の屈託のない満面の笑みに、湊の胸の奥が熱くなる。

 今までの自分は、ただ生き残るために必死だった。他人のことなんて考える余裕もなかった。

 だが、この『極・剣術』を極め、一歩ずつ進んでいく先に、こんなにも温かく、尊い日常があるのなら。


(……もっと強くならなきゃな。最短距離で。この笑顔を守るための『最強』へ)


 湊は、再び気合を入れ直すように、自分の皿の肉を一気に口へ放り込んだ。

 黄金の味が、空っぽだった身体の隅々まで染み渡っていく。


 新宿ダンジョン、6層。そこには、これまでの比ではない絶望と、複雑な迷宮が待っているという。

 だが、背中を預けられる最強の相棒と、帰りを待つ家族がいる。

 今の湊に、恐れるものなど何一つなかった。


「陽太、結菜。明日は新しい防具も買いに行くからな。兄ちゃん、もっとカッコよくなってくるよ」


「うん! 兄ちゃん、気をつけてね!」


 新宿の夜は更けていく。しかし、四人を包む空気は、かつてないほどに明るく、そして力強い希望に満ちていた。

 

 その頃、インターネットの片隅――探索者たちが集う匿名掲示板では、一つの「噂」が急速に熱を帯び始めていた。

 5層ボスを瞬殺した、正体不明の「ボロ布の青年」と「巨大な盾の男」。

 彼らの知らないところで、運命の歯車はさらに大きく回り始めていたのである。


【第8話:後書き】


第8話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


死闘のご褒美は、最高級の焼肉と家族の涙。

湊が手に入れた『極み』の力は、初めて形となって彼の日常を救いました。

剛もまた、守るべきものがある湊の姿に心打たれ、自らの使命を再確認しました。


【第8話終了時点:ステータス】

名前:佐藤 湊

レベル:8

職業:見習い剣士・極

スキル:【極・剣術】熟練度:2.01%

・派生技:受け流し・極(2.00%)

資産:約230,000円(※焼肉代、生活費、次話の装備新調費を確保)


名前:真壁 剛

職業:城塞騎士

習得スキル:【不屈の盾】【シールドバッシュ】【挑発の咆哮】


次回、第9話「【新宿5層】例の二人組について語るスレ」。

ネット掲示板回! 湊と剛の活躍が、世間にどのような衝撃を与えたのか?

第三者視点で語られる、彼らの「異常性」とは。お楽しみに!


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