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世界1位への熟練度(レベリング) 〜家族を守るために「剣術」を極めた俺が、世界を買い叩くまでの物語〜  作者: しろくま


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9/12

喧騒の余波と、底辺の視線



 新宿の夜は、ダンジョンの中よりも騒がしい。

 築四十年の安アパート。薄い壁越しに聞こえる隣人のテレビの音と、深夜になっても止まない都会の重低音。

 湊は、風呂上がりの湿った髪もそのままに、煎餅布団の上でスマホを眺めていた。画面の光が、暗い部屋の中で彼の少しだけ鋭くなった目元を照らしている。


 彼が覗いているのは、探索者専用の匿名掲示板『ダンジョン・ナウ』の新宿スレだった。

 そこには、今日の5層での出来事が、無責任な憶測と共に溢れかえっていた。


『145:名無しの探索者

 今日のエリート初撃破、現場にいたけどマジで意味不明だったぞ。

 片方のリーダーっぽい奴、ボロボロの防護服着て、一昨日まで2層で小銭拾いしてた「ゴミ拾い」の湊だろ?

 あんな底辺がどうやってエリート殺したんだよ。チートか?』


『152:名無しの探索者

 あー、あのゴミ拾いの湊か。いつも汚いツラして魔石の欠片を漁ってたよな。

 あんな使い捨ての駒みたいな奴に先を越されるとか、新宿の中堅パーティーは恥ずかしくないのかよ。』


『168:名無しの探索者

 噂じゃ、どっかのギルドが実験体に「禁忌のバフ」でも盛ったんじゃないかって話だ。

 ゴミ拾い風情がエリアボスの心臓を無傷で抜くなんて、物理的に不可能だろ。

 どうせ中身は運が良かっただけの素人だ。6層に入れば、身の程を知ってすぐ死体で戻ってくるさ。』


「……ゴミ拾い、か」


 湊は、スマホの画面に映る自分の過去をなぞるような言葉を、静かに反芻した。

 腹が立つというより、妙に冷静な自分がいた。

 確かに、これまでの彼はゴミ拾いだった。2層や3層で、強いパーティーが倒し損ねた端切れのような魔物や、地面に落ちた魔石の欠片を、泥にまみれて拾い集めてきた。

 陽太と結菜に食べさせる一握りの米のために。一円でも多く、一秒でも長く生き延びるために、彼はプライドなんてものはとっくに新宿の路地裏に捨ててきたのだ。


(チート、ね。……まあ、そう見えるんだろうな)


 湊は自分の右手の掌を見つめた。

 熟練度2.00%に達した瞬間、世界の見え方は確かに変わった。

 だが、それは空から降ってきた幸運ではない。

 何千、何万回と繰り返してきた「ゴミ拾い」の中で、どうすれば最短距離で魔石に辿り着けるか。どうすれば一番安物のナイフで効率よく皮を剥げるか。

 極限まで追い詰められた「貧乏人の知恵」が、スキルの覚醒によって昇華された結果に過ぎない。


「……身の程、か。そんなもん、とっくに忘れたよ」


 湊はスマホを放り出し、天井を見上げた。

 掲示板の連中は、彼が「運良く覚醒した底辺」だと思って笑っている。あるいは、その急成長を不気味がり、悪意を向けている。

 だが、彼らには見えていないものがある。

 湊の隣で盾を構え、粉々になっても笑っていた剛の存在。そして、今日食べたあの焼肉の味。


 ピロン、とスマホが震えた。剛からのメッセージだ。

『湊、起きてるか? 掲示板見たかよ。「ゴミ拾いコンビ」がどうとか書かれてるけど、俺はむしろ気に入ったぜ!

 これからは新宿のゴミ……もとい、害悪な魔物を全部拾って(ブチのめして)掃除してやろうじゃねえか! ガハハ!』


 剛の、脳天気なまでの前向きさに、湊の凍りかけていた心が少しだけ解ける。

『そうですね。掃除ついでに、一円残らず買い叩いてやりましょう』


 湊は返信を送ると、部屋の隅に置いた袋に視線を移した。

 そこには、今日手に入れたばかりの、新品の漆黒の防護服が入っている。

 もう、ボロボロの布を纏って震える必要はない。

 

 隣には、5層ボスの遺産である『黒鋼の重剣』が、鈍い光を放っている。

 掲示板で彼を「ゴミ拾い」と嘲笑った連中が、6層の入り口でこの剣を見たら、一体どんな顔をするだろうか。


(一円でも多く稼ぐ。家族を笑わせる。剛さんを死なせない)


 湊の目的は、最初から変わっていない。

 ただ、そのための「道具」が、ゴミ拾いのナイフから、世界を斬り裂く「極みの剣」に変わっただけだ。


 新宿の夜は更けていく。

 スマホの画面は暗くなり、掲示板の無責任な喧騒は、湊の研ぎ澄まされた呼吸の中へと消えていった。

 

 明日、新宿ダンジョン6層。

 そこで待っているのが、掲示板で囁かれるような「洗礼」であろうと、迷宮の牙であろうと。

 佐藤湊は、ただ最短距離で、その全てを拾い上げる。


【第9話:後書き】


第9話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


掲示板での「ゴミ拾い」という侮蔑的な評価を湊が目にすることで、彼の「持たざる者としての執念」をより際立たせました。

他人の悪意を否定するのではなく、それを踏み台にして自分の目的を再認識する。湊のダークで、かつ人間味のある芯の強さを描けたかと思います。


【次話への展望】

・ついに10話。湊と剛が新しい装備で6層へ降臨。

・掲示板の噂を聞きつけ、彼らの「化けの皮」を剥ごうとする中堅パーティーとの接触。

・6層のギミック「動く壁」を、湊の熟練度がどう攻略するのか。


次回、第10話「6層の洗礼と、交錯する牙」。

10話ごとの節目、一気に物語が加速します。お楽しみに!


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