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世界1位への熟練度(レベリング) 〜家族を守るために「剣術」を極めた俺が、世界を買い叩くまでの物語〜  作者: しろくま


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逆転の極みと、黄金の帰還



 鋼鉄のロングソードが、断末魔のような金属音と共に弾け飛んだ。

 銀色の破片が、エリートが放つ禍々しい魔力の光を反射しながら、スローモーションのように宙を舞う。湊の視界の中で、一際鋭い破片が頬を掠め、熱い感触が走る。その痛みさえも、加速した意識の中では遠い異国の出来事のように感じられた。


「……ギギ、ガァァァッ!」


 勝利を確信したエリートが、醜悪な顔を歪めて嘲笑う。

 掲げられた肉切り包丁は、もはや武器というよりは巨大な鉄の質量そのものだった。それが重力と怪力を味方に付け、無防備な湊の脳天を目掛けて、逃れ得ぬ死の軌道を描きながら振り下ろされる。


「湊ォォォォォッ!!」


 床に伏し、砕けた盾の破片にまみれた剛の絶叫が、石造りの広間に反響する。

 だがその瞬間、湊の精神は極限の集中を超え、システムの「深淵」へと接続されていた。


――【熟練度2.00%到達:身体制御の「深淵」を解放します】

――【演算能力拡張。敵の攻撃ベクトル、構造的弱点を完全捕捉】


 湊の全身の血管が、沸騰したかのように脈動する。網膜に映る情報の濁流が整理され、エリートの動き、空気の振動、包丁が描く放物線……そのすべてが、数千、数万の黄金の数式へと変換されていく。


(……ああ、そうか。剣は、手にある必要すらなかったんだ)


 湊の右手が、無意識のうちに流れるような円を描いた。

 折れた剣の「柄」だけを握った拳。そこに、熟練度2.00%がもたらした極限の脱力と、一点に集約された魔力が宿る。


 振り下ろされる絶望の刃。

 湊は回避を選択しなかった。一歩、敢えてその死地へと踏み込み、折れた剣の「断面」を、包丁の「側面」へと静かに添えた。


【極・剣術:派生技『受け流し・きわみ』】


 キィィィィィィン!!


 鼓膜を直接針で刺すような、超高音の衝撃音が広間を支配した。

 エリートの放った数トンに及ぶ暴力的な怪力が、湊の指先一つ分のミリ単位のコントロールによって、完全にその軌道を真横へと逸らされた。

 

「……ギ、……ガッ……!?」


 エリートの黄色い瞳が、驚愕に大きく見開かれる。

 全力の一撃が、柳の枝に触れたかのように無効化され、地面を爆砕する。その衝撃の余波で広間に砂塵が舞う中、湊は逸らした包丁の勢いをそのまま自身の回転エネルギーへと変換した。


 独楽のように舞い、エリートの懐へと潜り込む。

 湊の顔には、死線を楽しんでいるかのような、不敵で人懐っこい笑みが浮かんでいた。


「悪いけど、俺には帰って待ってる家族がいるんだ。……ここで止まるわけにはいかない」


 湊は、空中で踊るロングソードの破片を、左手で鮮やかに掴み取った。

 熟練度2.00%が弾き出した、エリートの鎧の「唯一の継ぎ目」。首元、革鎧が重なり合うわずか数ミリの隙間。

 そこへ、折れた刃を精密機械のような正確さで突き立て、右手の柄でその尻を叩き込んだ。


 ドォォォォォンッ!!


 エリートの巨体が、内部からの衝撃に耐えかねたように激しく震える。

 黒い霧が噴き出し、ボスの巨躯が粒子となって崩壊していく。その霧の中から、かつてないほど巨大な魔石と、二つのアイテムが床に転がり落ちた。


【レベルが上昇しました:Lv.5 → Lv.8】

【5層エリアボス:ゴブリン・エリートを初撃破しました】


 静寂。

 湊は折れた柄を捨て、肩で息をしながら、膝をついた。全身の筋肉が断線したかのように震え、視界が明滅する。


「……湊。お前、本当に、人間かよ……」


 剛がボロボロの身体を引きずりながら近づいてくる。

 彼の盾はもはや鉄屑となり、腕は紫色の打撲で覆われていたが、その瞳には湊への揺るぎない「信頼」が宿っていた。


「……人間だよ。ただ、やっと『無駄な動き』が分かってきた気がする」


 湊は人懐っこく笑い、剛の手を借りて立ち上がった。

 今までの自分は、ただ必死に剣を振り、泥を舐めるような戦いしかできなかった。効率なんて言葉は、選ばれた強者のためのものだと思っていた。

 だが、今なら分かる。この『極み』があれば、世界を買い叩くための「最短距離」を走れる。


「剛、ドロップアイテムを確認しよう。……こいつは凄いな」


【ドロップアイテム:黒鋼の重剣(Rank:D)】

・攻撃力:+35 / 耐久度:80/80

・特性:【剛力の加護】筋力が一定値以下の者が振ると重いが、条件を満たせば破壊的な衝撃波を生む。


【ドロップアイテム:エリートの心臓(素材)】

・高純度の魔力を宿す核。売却額:50,000円前後の価値。


「黒鋼……今の俺たちのランクからすれば、国宝級の当たりだぞ、これ」


 剛が興奮気味に声を上げる。湊はその重剣を手に取った。ずしりとした重量感。しかし、今のレベル8になった身体なら、この「重み」を制御し、破壊力へと変換できる確信があった。


「そして、剛。……いよいよだな」


 二人の前に、宿命の職業選択が提示される。

 湊の前には、世界で唯一「極」の名を冠するスキルを持つ者だけに許された、未知の選択肢。


【職業:見習い剣士・きわみ

・固有スキル『極・剣術』の熟練度上昇に合わせ、職業そのものが進化・変態する。

・「極」に至るための、最も遠く、最も近い最短経路。


「見習い……『極』。……はは、成長すればするほど、職業自体が変わっていくのか」


 湊がその表示に触れると、白銀の光が彼を包み込んだ。

 一方、剛の前にも三つのカードが提示されていた。剛は迷うことなく、自らのアイデンティティを証明するような選択をした。


【職業:城塞騎士フォートレス・ナイト

・特性:【絶対守護】自身の背後にある対象のダメージを15%肩代わりする。

・習得スキル:『シールドバッシュ』『挑発の咆哮』


「湊、俺は『城塞騎士』にした。これからは、どんな攻撃が来ても俺の後ろでお前を傷つけさせやしない。俺が、お前の最強の城壁になってやる」


「最高に心強いよ。……剛、頼りにしてる」


 剛の言葉に、湊は胸が熱くなるのを感じた。

 これまでの彼は、ただ生き残るために他人を警戒することばかり考えていたかもしれない。だが、死線を越え、背中を預け合ったこの大男は、もう損得勘定で測るような存在ではなかった。


「……剛。さっきから思ってたんだけどさ、ここからはパーティーとして、正式に名前で呼び合わないか?」


「……! ああ、もちろんだ。俺も言おうと思ってたんだ。湊、よろしくな!」


 二人は、新しく手に入れた『黒鋼の重剣』を湊が担ぎ、剛はエリートの死骸から拾った厚手の鉄板を代わりの盾として構え、5層の奥座敷を後にした。

 本来なら、エリアボスを倒した者はその先――6層へと続く階段を降りる権利を得る。しかし、今の二人の装備は限界を超え、精神的な疲労もピークに達していた。


「剛、今日はここまでだ。欲張って6層に潜るより、一度戻って態勢を整えよう。何より……一刻も早く、こいつらを金に変えないと、俺の家の夕飯がピンチなんだ」


「ははっ、切実だな! 賛成だ。……正直、俺ももう一歩も歩けねえと思ってたところだ」


 二人は足を引きずりながら、新宿ダンジョンの地上へと向かう帰還専用のエレベーターホールに辿り着いた。

 扉が閉まり、静かな上昇音が耳に響く。密室の中に、戦いの後の熱気と、鉄の臭い、そして自分たちが生き延びたという確かな実感が充満していく。


 地上、1階。

 エレベーターの扉が開くと、そこはいつもの新宿の喧騒だった。


 夕闇に包まれ始めた歌舞伎町のネオン。行き交う人々。ダンジョンの死臭と静寂が嘘のような、生温かく、騒がしい日常の空気。

 

 ボロボロの防護服に、返り血で汚れた顔。背中には不釣り合いな巨大な黒剣を背負った青年と、盾を砕かれながらも意気揚々と歩く大男。

 駅へと向かう一般人たちが、奇異の目、あるいは嫌悪や畏怖を混ぜた視線で二人を避けていくが、今の湊にはそんな視線はどうでもよかった。


「行こうぜ、剛。ギルドへ。こいつらを全部金に換えて、今日は贅沢しようぜ」


「おう、湊! 焼き肉か? 焼き肉食わせてくれるのか!?」


 湊は人懐っこい笑みを浮かべ、夕闇の新宿をギルドへ向けて歩き出した。

 『見習い剣士・極』としての最初の一歩。

 佐藤湊の、この理不尽な世界を「買い叩く」ための物語は、今、第1章の幕を閉じた。


【第7話:後書き】


第7話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


死闘を終え、湊は限定職業「見習い剣士・極」へ。剛は「城塞騎士」へ。

ボロボロになりながらも、二人は確かな戦果と「信頼」を手に、新宿の喧騒へと帰還しました。

「名前呼び」となった二人のパーティーは、もはや単なる協力関係ではありません。


次回、第8話「ギルドの喧騒と、暴かれる戦果」。

二人が持ち帰った戦利品が、探索者ギルドに衝撃を与えます。換金所で待ち受けるドラマをお見逃しなく!


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