不器用な盾使い
第4話をご覧いただきありがとうございます。
5層の暗闇で出会った、絶体絶命の盾使い。
折れかけの剣を握る湊は、損得勘定を超えて一歩を踏み出します。
「レベル」という数字の暴力と、「熟練度」という技の極致。
その融合が、最初の奇跡を起こします。
5層の広間に、鈍い金属音が虚しく響き渡る。
中心に立つ大男は、その巨体に似合わないほど悲痛な形相で、ボロボロのタワーシールドを構え直していた。
「クソ……ッ! どけよ、この化け物共が!」
男の名は真壁剛。
その名の通り、剛健な体格に恵まれながらも、動きは恐ろしく鈍重だった。周囲を取り囲む六匹のゴブリンは、彼が反撃できないことを完全に見抜いている。一匹が盾を叩いて注意を逸らし、その隙に背後の二匹が脚や背中を切り裂く。
男の装備は鉄製で湊よりは遥かに上等だが、すでにその表面はゴブリンの爪と棍棒によって無残に削り取られていた。
(……助けられるか? いや、助けるんだ。俺が「世界一」になるなら、ここで一人救えないようじゃ話にならない)
湊は物陰から飛び出し、戦場の最短距離を駆け抜けた。
その瞬間、脳内のシステムが熱を帯びる。
――【戦闘開始:対象ゴブリン×6。最適経路を算出します】
ただ走っているだけではない。足の運び、膝のクッション、そして視線の配り方。レベル4へと上がったばかりの肉体は、昨日までの自分とは明らかに違う「軽さ」を持っていた。
レベルアップによる基礎ステータスの向上。それは、心肺機能の強化や反射速度の底上げとして、確実に湊の動きを支えている。
「おい、盾の兄さん! そのまま耐えてろ!」
湊の叫びに、真壁が驚愕に目を見開く。
その隙を突き、湊は最も背後から真壁を狙っていた個体へ、折れかけのショートソードを突き出した。
プシュッ、と確かな手応え。
心臓を正確に貫かれたゴブリンが、断末魔すら上げずに霧へと変わる。
【熟練度が0.01%上昇しました。現在の熟練度:1.28%】
【経験値を獲得しました。15/60exp】
(……レベルアップまであと少し。この乱戦で上げる!)
仲間を殺された残りの五匹が、一斉に湊へとターゲットを切り替えた。
黄色い瞳が憎悪に燃え、三方向から同時に棍棒が振り下ろされる。
「危ない! 逃げろ!」
真壁が叫ぶが、湊の視界には「避けるべき場所」が光の筋となって見えていた。
湊は体を捻り、二本の棍棒を紙一重でかわすと、最後の一本の「側面」に刃を添えた。
【極・剣術:派生技『受け流し』】
キィィン! と火花が散る。
ゴブリンの棍棒は勢いよく弾かれ、隣にいた仲間の顔面に直撃した。
「ギャッ!?」「ギギィ!」
自滅した二匹の隙を逃さず、湊は素早く踏み込む。
ショートソードの耐久度はすでに「1」。刃はボロボロだが、熟練度1.28%が導く「最も効率的な斬撃」は、ゴブリンの硬い皮膚をバターのように裂いた。
立て続けに二匹を処理。
その瞬間、湊の全身を心地よい熱が包み込んだ。
――【レベルが上昇しました:Lv.4 → Lv.5】
――【基礎ステータスが向上しました。筋力・敏捷が一定値上昇】
(……軽い! 全身の細胞が作り替えられたみたいだ!)
レベル5への到達。
たった一つの数字の差だが、底辺探索者にとってこの「1」の重みは絶大だ。
加速する思考。爆発的に高まる脚力。
湊は残りの三匹の真ん中へ、文字通り「突っ込んだ」。
もはや「受け流し」すら必要ない。
レベルアップによって強化された敏捷性が、ゴブリンの動きをスローモーションのように見せていた。
一閃、二閃、三閃。
耐久度限界を超えたショートソードが、最後のゴブリンの首を跳ね飛ばすと同時に、パキンと乾いた音を立てて砕け散った。
「……ふぅ。終わった、な」
手元に残ったのは、柄だけの残骸。
湊は荒い息を整えながら、呆然と立ち尽くす真壁へと歩み寄った。
「大丈夫か、あんた」
「あ……ああ。助かった。俺は真壁剛。……あんた、今の動き、一体何なんだ? そのボロい剣で、ソロで五層のゴブリン六匹を……」
真壁の視線は、湊の折れた剣と、その立ち振る舞いに釘付けになっていた。
彼のような「才能がない」と言われ続けてきた不器用な探索者にとって、湊の無駄のない動きは、神業のように見えたに違いない。
「佐藤湊だ。……たまたま、運が良かっただけだよ」
湊は謙虚に笑ったが、その内側では確かな手応えを感じていた。
熟練度は上がれば上がるほど上昇しにくくなる。だが、レベルアップによって基礎体力が上がれば、より高度な「熟練の動き」が可能になる。
この相乗効果こそが、世界一への最短ルートだ。
「……湊さん、か。あんた、もし良ければ……この後の攻略、手伝ってくれないか? お礼はする。魔石の分配も、俺の分は少なくていい」
真壁の言葉に、湊は一瞬考え込んだ。
ソロの方が気楽だ。だが、今の自分には武器がない。
そして何より、この真壁という男の「盾」は、今の湊にはない「防御の安定感」を補ってくれる可能性がある。
「……分かった。ただし、俺は武器を失った。あんた、予備の剣とか持ってないか?」
「ああ! 質のいい鉄の剣がある。俺には重すぎて使いこなせなかったやつだが……あんたなら、きっと」
真壁が背中のバッグから取り出したのは、無骨だが手入れの行き届いた『鋼鉄のロングソード』だった。
【武器:鋼鉄のロングソード(Rank:E / 攻撃力+12 / 耐久度 45/50)】
今のショートソード(攻撃力+3)の四倍の威力。
湊がそれを握った瞬間、システムが新しい武器に反応し、静かに数字を刻み始めた。
(……これだ。武器、レベル、熟練度。すべてが噛み合っていく)
「行こう、真壁さん。5層の主を、拝みに行こうぜ」
新宿ダンジョンの深淵。
そこにはまだ、本当の絶望と、それを凌駕する「極み」の光が待っている。
二人の歩みは、まだ始まったばかりだった。
【第4話:後書き】
第4話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ついに運命の相棒、真壁剛と合流した湊。
レベルアップによる身体強化と、熟練度による技術。
そして待望の「新武器」を手に入れ、攻略のスピードはさらに加速します。
【第4話終了時点:ステータス】
名前:佐藤 湊(日本ランク:321,438位 / 世界ランク:圏外)
レベル:5(レベルアップ! 経験値:5 / 次まで 80exp)
職業:未設定
スキル:【極・剣術】熟練度:1.29%
・初期派生技:受け流し
武器:鋼鉄のロングソード(Rank:E / 攻撃力+12 / 耐久度 45/50)
防具:汎用ポリエステル防護服(Rank:F / 防御力+2)
資産:6,800円(※真壁との共同探索でこれから増加予定)
次回、第5話「最強の盾と最速の剣」。
二人のコンビネーションが、5層の魔物を蹂躙します。
お楽しみに!




