表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/71

第八章④ エリオット

 ちょうどその時だった。扉が、ノックを待たずに勢いよく開いた。

「大元帥! お邪魔しますぞ!」

 低くも朗らかな声と共に現れたのはルソーで、その後ろには涼やかな眼差しのイザベルが続いていた。

「エリオット? 顔色が悪いわ」

「……何かあったのか?」

 突然の訪問にエリオットはわずかに目を瞬かせたが、すぐにいつもの柔和な微笑を取り戻した。

「いや。少し考えごとをしていただけだ」

 ルソーは大股で部屋に入り込み、机の前までずかずかと歩み寄る。

「そういう顔じゃなかったがな。お前が一人で悩み込むとろくなことがない、ってのは昔からの癖だろう?」

 イザベルも腕を組み、訝しげに首をかしげる。

「まさか、また仕事を抱え込みすぎているんじゃないでしょうね?」

 二人の問いかけにエリオットはしばし沈黙し、それから小さく笑った。

「……心配性な友を持って、私は幸せ者だ」

 彼の目元に浮かぶ光は密書を読む前とは確かに変わっていた。

「お前たちに、見せたいものがある」

 ルソーは眉をひそめ、イザベルも目を細める。

「どういうこと?」

「私ひとりで背負おうと思っていたが、もう観念した。……これを見てくれ」

 そう言ってエリオットは再度引き出しを開け、机の上にそっと密書を置く。二人が広げられた紙を覗き込むと文字が目に入る。

「ゼフィランサスのことで話がしたい。二月十八日の夜、ブレスト城の屋上で」

 イザベルが口に出して読むと、ルソーは一瞬眉をつり上げた。

「……な、なるほどな」

 エリオットは二人に視線を向け、低く告げた。

「この日、二人きりで話す。決して邪魔をするな」

 ルソーは口をぽかんと開け、イザベルも一瞬言葉を失う。しかし、二人とも頷き密書の内容を胸に刻む。

「わかった、邪魔はせん」

「……承知しました」

 エリオットは二人の反応に小さく頷き、視線を再び密書に落とす。その瞳には覚悟が漂っていた。

 ルソーは密書を手に取り、眉をひそめる。

「けど、差出人の名前がないな……誰からだ?」

 エリオットはゆっくりと視線を上げ、ルソーに答えた。

「おそらく、あいつしかいない。マクシミリアン・ブーケだ」

 イザベルが息をのむ。ルソーも拳を軽く握る。

「マクシミリアン……。オレたちにとっても、手強いやつだ」

 エリオットは言葉を続ける。

「彼の目的は明らかだ。私への復讐を果たすつもりだろう。しかし、どうやらその前に話がしたいらしい」

 机越しに二人を見つめ、静かに小さく頷く。

「実に冷静なやつだ……行動も、感情も、ぶれない」

 ルソーは肩をすくめ、考え込むように視線を机の上に落とした。

「なあ、ふと思ったんだが……ゼフィランサスの家族って、結局どうなったんだ? 消息不明のままだろ」

 イザベルがすぐに顔を曇らせる。

「そうね。誰も生存を確認できていない」

 ルソーはゆっくりと顔を上げ、目を細める。

「……もし、まだ生きているとしたら」

 彼は珍しく一瞬言葉を詰まらせたが、構わず続けた。

「なら、マクシミリアンがやつの息子なんじゃないか?」

 エリオットの瞳が一瞬、鋭く光る。

「つまり、復讐の矛先も血縁的な因縁の上にあるということか」

 イザベルは軽く息をつき、ルソーの言葉の重みを理解した。ルソーはその目に鋭い確信を浮かべたまま、小さく肩をすくめる。

「血の連鎖、因縁……やつは計算しているのか、それとも本能で動くのか。どっちにしても手強いな」

 エリオットは静かに息をつき、首を振った。

「……血縁と決めるには、早計だ。直接話し合って確かめるつもりだ」

 ルソーは軽く眉を上げ、イザベルを見る。

「話し合い……ああ、なるほどな。直接、相手の意思を確かめると」

 エリオットは執務机の上に密書を置き、鋭い視線を二人に向ける。

「ただの会話では済まないかもしれない。だが、真実は必ず自分の目で確認する」

 イザベルは小さく頷き、ルソーも静かに拳を握る。

 三人の間には、言葉にせずとも覚悟と緊張が静かに共有される。

 エリオットは立ち上がり、二人に向けて低く告げた。

「この話は以上だ。再三言っておくが、邪魔はするな」

 ルソーとイザベルは黙って頷くと、執務室を後にした。

 廊下に出ると二人は自然と歩調を合わせ、静かに話し始める。

「……マクシミリアンが何をするか、正直読めん」

 ルソーが眉を寄せ、口を開く。

「エリオットには悪いけど、急ぎ第八部隊と第九部隊を城に配置させるべきね」

 イザベルは冷静に判断を告げる。

「必要であれば殺しも構わん。けど、基本は捕縛だ。復讐者相手に情けは無用」

 第八部隊は城内へ、第九部隊は要所へ。命令はすぐに飛んだ。

 夜のブレスト城は静かな緊張と覚悟の空気に包まれたまま、深い闇へと沈んでいく。

 その中心で、確実に何かが動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ