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第五章⑥ アルフォンス

 予定より遥かに早い到着だった。

 白い建物が港に近づくたび、隊員たちの心に安堵が染み込む。海上での緊張が解け、肩の力がゆるむ。波を蹴る船の軋む音が、遠く戦闘の残響をかき消してくれるかのようだった。


 ブレスト司令部。執務室の扉が静かに閉じられ、室内には紙の匂いと昼の淡い光が漂っていた。

 アルフォンスは整然と立ち、手元の報告書を差し出す。

「大元帥、サン・マロ奪還作戦は成功しました。マクシミリアン・ブーケ隊も無事に帰還しております」

 エリオットは机に肘をつき、沈黙のまま報告書に目を落とした。

 奪還の成果は喜ばしい。だが、マクシミリアン隊の生還を思うと心の奥底には苦みが残る。

「……アルフォンス」

 エリオットの鋭い声が重苦しい空気を震わせた。

「第三部隊を向かわせたのは君の判断だな? なぜそんなことをした。君はシャトレ家の人間であり、海軍トップの側近のはずだろう?」

 アルフォンスは一歩前へ進み、落ち着いた声音で応じる。

「大元帥の命に従い、指示を全うすることが私の責務であるのはもちろんです。しかし……主君が間違った道を歩まないよう、手を差し伸べることこそが側近としての最大の務めだと考えております」

 そこでアルフォンスは一瞬言葉を区切り、静かに続けた。

「それが、父から教わった側近としての教えです。主君にただ従うだけではなく、誤りを正し、手を差し伸べ、道を照らすこと。……今の私は、それを自らの意思として選びました」

 エリオットはわずかに眉をひそめる。

「……手を差し伸べる、か」

 その言葉を噛み締めるように繰り返した。アルフォンスは微かに息をつき、視線を真っ直ぐに据える。

「はい、大元帥。あなたがかつて親友を手にかけたこと。自らの過ちであり、後悔であるとおっしゃるなら、今こそマクシミリアン隊と向き合うことがあなたの役目です。彼らの努力を正しく評価し、導くことが海軍の長としての務めではありませんか」

 静寂が落ちる。エリオットはしばらくアルフォンスを見据え、やがて口を開いた。

「……さすがシャトレ家、それに……君の父上だな」

 わずかに苦笑を浮かべながらもその声には確かな敬意がにじむ。

「今の君の姿を見て、君の父上も誇りに思うだろう」

 アルフォンスは深く一礼した。その背に迷いはなかった。

 エリオットは沈黙ののち、大きく息をついて目を細める。

「……分かった。君の言う通りだ。これからの海軍のために、そして……亡くなった友のためにも、向き合わねばならぬな」

 執務室には重苦しい緊張とともに、新たな未来への光が差し込み始めていた。

 その光はまだ細いが、進むべき道を照らしている。

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