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第二章② リー・ウェンとお茶会 続き

 ジョルジュは思い出すように口を開いた。

「発明といえば、この間、第六艦艇部隊から新兵器の詳細が送られてきたんだった」

 周囲の隊員たちが一斉に顔を向ける。リー・ウェンは興味深そうに身を乗り出し、サミュエルは眉を上げた。

「へえ、どんな兵器なんですか?」

「もしかして、この間のかしら」

 リゼーヌとロザリーが問いかける。

 ジョルジュは手元に書類を広げ、あの日の戦場の光景を思い浮かべながら説明を始める。

「震撃砲……大型の砲身で、砲弾じゃなく衝撃波を放つ仕組みだってさ。着弾時に周囲に衝撃を伝えて船体を揺らすんだ。実際に見たけど、海賊船が甲板ごとひっくり返るかと思った」

「衝撃波か……」

 リーは目を輝かせた。

「東洋の技術を応用したものですか?」

「そう、砲身の振動や金属プレートの共鳴で衝撃を増幅するらしい。火薬量は最小限で済むから、複数砲を短時間で運用できるんだって」

 ジョルジュは続ける。

「なるほど、それで戦場で船体を揺らして混乱させたのか」

 サミュエルは感心しつつも少し恐ろしげに顔をしかめた。

 ソフィーも静かに書類を覗き込みながら言う。

「前衛の船を足止めする戦術兵器、ね……。この間の戦闘で言うと、直接黒船を狙うより、支援としての役割が大き買ったのね」

 ジョルジュはうなずき、満足そうに微笑む。

「うん。連結剣と震撃砲、二つとも実戦で確認されたんだ。第六艦艇部隊の連中も、手応えを感じてるみたいだよ」

 ジョルジュは書類に視線を落とし、声を落ち着かせて読み上げる。

「震撃砲。大型の砲身が地面または砲台に固定され、通常の砲弾ではなく、衝撃波を伝える特殊弾を発射。発射時に砲身が振動し、弾体が水面や船体に着弾する際、衝撃波が周囲に広がり、船体や甲板を揺らす。弾体自体は爆発せず、物理的衝撃で船底や装甲を破損することが目的……」

 リゼーヌが目を輝かせる。

「なるほど……直接の爆発じゃなくて、衝撃で攻めると!」

 ジョルジュは続ける。

「東洋的知見としては、発射機構は中国古代の地雷や爆雷技術と振動を利用した兵法理論を応用している。弾体には特殊な金属製プレートを組み込み、着弾時に共鳴させて衝撃波を増幅する。火薬量は最小限で済むので、複数砲を短時間で運用可能だそうだ」

 リー・ウェンは微笑みながら頷く。

「興味深いですね。中国の古典兵法と火薬技術の融合……まさに、理論と実践が巧みに組み合わさった例です。衝撃波を利用する発想も、敵船の動きを止めるという戦術的な狙いを明確にしていますね」

「なるほど、単なる破壊力じゃなくて、戦術として活かすのか」

 サミュエルは納得したように頷く。

 リー・ウェンはゆったりと椅子に寄りかかり、書類の余白を指でなぞる。

「ジョルジュさんの説明に加えるなら、この震撃砲には東洋の兵法や武術で言う『気』の概念が応用されています」

 サミュエルが眉をひそめる。

「気……って、あの気功とかの気か?」

「そうです」

 リーは微笑みながら頷いた。

「単純に霊力や呪力ではなく、身体や物体の動きに内在する流れや力の集中を指します。東洋では、力を外に伝える際、この『気』の流れを意識することで、少ない力でも大きな効果を生むことができるとされます」

 リゼーヌが興味深そうに身を乗り出す。

「つまり、砲自体が振動して衝撃波を放つ仕組みに、この『気』の流れの原理が組み込まれているわけですね?」

 リーは頷き、さらに言葉を重ねる。

「はい。砲身の振動や弾体の共鳴の仕組みは物理的には機械仕掛けですが、原理としては気の流れを増幅するような設計になっています。力の伝達を効率化し、衝撃波をより遠く、より正確に広げられるのです」

 ロザリーは少し考え込み、呟くように言った。

「なるほど……単なる砲撃ではなく、東洋的な哲学や理論が取り入れられているのね」

 リーはにこりと笑った。

「ええ。この『気』の応用により、砲弾そのものを爆発させずとも、船体や構造物に大きな衝撃を与えられる。物理的衝撃と兵法理論の融合。これが震撃砲の真骨頂と言えます」

 サミュエルは次の書類を手に取り、少し顔をしかめながら読み上げた。

「……こちらは『連結剣』、別名スリングブレード。刀身同士を鎖で繋ぎ、回転させて遠距離攻撃にも応用できる武器。場合によっては投擲も可能、とのことだ」

 ジョルジュが目を丸くした。

「鎖で繋がった剣って、あんなのでどうやったら扱えるんです?」

「普通は無理だろうな」

 サミュエルも首を振る。

「だが、実際に使ってる奴らがいたのをみんな見たはずだ」

 彼の視線の先でリゼーヌが口を挟む。

「ええ、海賊との戦闘で目にしました。ルソー准将をはじめ数名の隊員が、信じられないほど自在に振り回して……敵を船から叩き落としたり、砲手を絡め取ったり」

 ロザリーは思い出しただけで鳥肌を立てる。

「いや、ほんとドン引きしたわ。あんなの普通の人間が扱える武器じゃない」

「同感です」

 ジョルジュは苦笑した。

「ボクも正直、見たときは目を疑った。まるで武器に選ばれているみたいな動きでさ。人間が剣を振るってるというより、剣が人を操ってるような……」

 場に奇妙な沈黙が流れるなか、リー・ウェンが軽く手を打った。

「ふふ、興味深いですね。連結剣は東洋で言う鎖鎌や分銅鎖の発展形に近いです。使い手の体術、呼吸、そして柔らかな動きがそのまま刃に伝わるのです。だからこそ、扱うには強靱な筋力よりも流れに身を委ねる感覚が必要になるります」

 リゼーヌが小さく頷く。

「だからクセが強くて、人を選ぶ……」

「いえ、人が武器を選ぶのではありません」

 リーは静かに笑んだ。

「連結剣が使い手を選ぶのです。刀身と鎖の連動は、一瞬でもためらえば自分自身を傷つける。つまり己の恐怖を超え、武器と一体になれる者だけが真に使える。ルソー准将はまさにその典型でしょう」

 ジョルジュは背筋を寒くしたように小声で呟いた。

「……やっぱり、常人の感覚じゃないですよね……」

 リーはおおらかに笑みを浮かべ、グラスの茶をすする。

「ええ。ですが、戦場という非常の場では、ときにその“常人離れ”こそが勝敗を分けるのです」

 リーの言葉にざわめきが広がるなか、サミュエルは両腕を組んで深いため息をついた。

「常人離れ、ね……確かにそうだ」

 皆が彼を見やる。サミュエルは苦笑しながら肩をすくめた。

「僕も昔は第一艦艇部隊にいたんだ。ルソー准将の部隊に混じってな。あそこはほんと、戦うために生まれてきたような連中の巣窟だったよ。人間っていうより、戦場そのものが彼らの居場所みたいでな」

 ソフィーが目を丸くする。

「サミュエルさんが……?」

「そうさ」

 サミュエルは苦い顔をした。

「でもな、僕にはどうしても合わなかった。血の匂いが当たり前みたいな空気に息が詰まりそうになって……結局、逃げ出すようにして今の場所にいる」

 サミュエルは肩を落としつつも、どこかホッとしたような表情を浮かべる。

「まあ。あんな連中と比べりゃ、ここはだいぶ人間らしい。……少なくとも、飯の席で血の匂いを気にしなくて済む」

 その自嘲混じりの一言に、場の空気は少し和らいだ。

 サミュエルは視線を落とし、ぼそりと口にする。

「僕はあんな連中とは反りが合わなかった。……規律とか格式とか、軍人社会の大義ってやつも、気づきゃ血の匂いで塗りつぶされていく。そんな場所に長くはいられなかったんだ」

 卓の上のランプの炎がゆらりと揺れ、場が一瞬しんとする。

 そこでジョルジュが顔を上げ、まっすぐにサミュエルを見て言った。

「でも、ボクたちからすると……逃げてきてくれてありがとうって感じです」

「……え?」

 サミュエルが目を瞬かせる。

「だってサミュエルさんと出会えたし。サミュエルさんの操舵技術を見てると、まるで海の神に……いや、海そのものに迎え入れられたんだろうなーって、そんなふうに思えるんですよ」

 素直な言葉に場の空気がふっとやわらぐ。

 サミュエルは照れ隠しの代わりのように深く息を吐き、目を伏せる。それ以上何も言わなかったが、受け止めたことだけは誰の目にも明らかだった。ランプの炎がぱちりと音を立て、時間が止まったように思えた。そこでロザリーがにこりと笑い、紅茶のポットを持ち上げる。

「——ねえ、みなさん。せっかくのお茶会が冷めてしまいますわ。おかわりはいかが?」

 その声音は重たくなった空気をそっと撫でて解きほぐすようだった。

 リゼーヌもすかさず笑みを浮かべる。

「そうそう。せっかくリーさんから東洋のお菓子をいただいたんですもの。まだ手を付けてないでしょう? こういうのは温かいうちに楽しまなくちゃ」

 ロザリーが優雅にカップを回し、リゼーヌが皿を取り分ける。自然と卓に再び和やかな空気が流れ、先ほどまでの沈黙はまるで幻だったかのように溶けていった。

「ふふ、こうしてお茶を囲むと不思議と心がほどけるね。……ああ、いい香り」

 ソフィーがつぶやいた直後、廊下の方から足音が近づいてきた。

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