No.96 二畳間の城
「もう七割は散って葉桜になっておるのぅ」
「昨晩に雨が降ったからかも知れないにゃー」
何やら春の催し物が行われているようで随分と賑やかに思えた。
妾の要望で念願の「銀ブラ」を叶え、沢山のインスタ用撮影をしながら銀座から神田へと抜けていく。
遠目に秋葉原の電気街が見えてきた。
「カルカン! 万世橋なのじゃ! ここでも撮ってたもれ」
「ハイハイなのにゃー。この分じゃ上野公園につくのは昼を過ぎちゃうにゃ……」
カルカンは文句を言いつつも妾の我儘を叶えてくれる。
歩行者天国の秋葉原でも散々撮影をしたので遅くなってしまった。
アメ横を通って上野公園へ。
少しダミ声になり始めたおっちゃんたちの声が軽快に飛び、袋には大量のお菓子が詰め込まれたりもしている。ここまで歩いてきた道で最も人口密度が高い。
鼻をヒクつかせたカルカンが、妾の袖をクイクイっと引く。
「ヨウ、ヨウ、鮎の塩焼きがあるのにゃ。ちょっと寄り道していかないかにゃ?」
「ええい、さっきも魚の屋台に突撃したでは無いか。もうよかろ?」
混み合うアメ横では満足に撮影も出来ないので、妾は足早に抜けていった。
ごった返す上野公園。
昨夜から、壮絶で過酷な場所取りをリーマンがしてくれたらしい。
「ヨウカン様、お待ちしていましたよ。随分と遅い到着でしたね」
「かような場所が確保できたのじゃな。実に良い。ご苦労なのじゃ」
程なく差し入れを持参したオキノたちも合流する。
リーマンの用意したブルーシートは見慣れたサイズの二畳分。
「妾も外に出てまで狭い思いをするとは思わなんだ。しかも結局飲み会になっているのじゃ」
「花見に酒は付き物なのにゃ!」
笑顔のカルカンが乾杯も待たずにビールを飲み干す。
呆れ笑いを浮かべ、妾もビールが注がれたクリアカップを傾けた。
二畳分の妾の城。
大切な物も、大切な人も、手を伸ばせば届く分だけで充分だ。
カルカンのお酌を受けながら、皆の顔を見渡した。
「……満開なのじゃ」
笑顔のカルカンがクリアカップを掲げる。
「これからもよろしくにゃ」
「うむ、よろしく頼むのじゃ」
乾杯の声が木霊し、同時に桜吹雪も舞う。
唐突にオキノの娘のヨロンが空を指差す。
「ヨウ様、見てニャン! 虹ですニャン!」
桜は散ったが、虹は咲いた。
心地良い風に目を細める。その瞬間──。
「うっぷ、気持ち悪いにゃ……おえぇエロエロレロレロ……」
空には雨上がりの一筋の虹。ブルーシートではカルカンのレインボー。
妾の新生活の第一歩は、花見と拭き掃除から始まるのだった。




