No.95 夢の扉
カルカンの後ろにはオキノとリーマンが見える。
二人とも随分と様変わりしていた。
リーマンは頭に白いものが混じって見えるし、オキノはだいぶ大きくなった。……横に。
「ヨウカン様、おはようございます。15年ぶりの御目覚めですね」
「ヨウ様、お久しぶりニャン。私の娘も紹介したいニャン」
オキノの後ろから、ひょっこりとこちらを覗き込んでくる猫魔族の少女。眠る前に見たオキノにそっくりだ。
「名はなんとゆうのじゃ?」
「ヨロンですニャン」
ヨロンとカルカンを見比べる。
ひょっとして旦那は……いや、無いか。
「にゃ? 今、何か失礼なことを考えなかったのにゃ?」
「気のせいじゃ」
カルカンをすげなくあしらい、ヨロンへ微笑みかける。
「年はいくつじゃ?」
「9歳ですニャン」
ヨロンの背丈は妾とさほど変わらない。妾は母の体に統合されたはずなのに、妾の容姿は以前の状態に戻っているようだ。
自分の腕や尻尾を確かめていると、皆が妾の顔を覗き込んできた。眠る前と変わらない笑顔に包まれ、自然と言葉が口をついた。
「皆の者、ただいまなのじゃ」
数日後。
尻尾にブラッシングをしていたら、カルカンが何やら紙の束らしき物を抱えてやってくる。
「いつでも出掛けられるけど、ヨウの行きたい所はあるかにゃ? パスポートも用意してあるのにゃ!」
ルンルンに尻尾を弾ませたカルカンが、世界旅行のパンフレットを妾の目の前に広げた。
初めての旅行に心は踊る。
だが、春にカルカンと出掛けるなら最初の行き先は決めていた。
「妾は花見がしたいのじゃ」
「国内旅行にゃ? どこが良いかにゃーー」
「いや、近場で良い。自分の足で歩いて出掛けたいのじゃ。お主と二人で」
徒歩で行ける範囲でなるべく遠くにしようという話になり、幾つかの候補案から厳選した結果、上野公園へ向かうこととなった。
翌日。
ラザに留守番を頼み、妾が通る事の無かった外の扉を開ける。
「思いっきりオフィスビル内なのじゃ」
「ヨウ、直通エレベーターに乗るのにゃ」
一階まで一度で降りれるエレベーターでエントランスフロアへ向かい、自動ドアを抜けて屋外に出ると街の喧騒が一気に飛び込んできた。
「今まで実感はなかったが、マジで赤坂じゃな」
「ちゃんと元の位置に戻って良かったのにゃ」
妾が眠った後も龍脈の調整が行われ、元通りになって10年経ったとカルカンが説明してくれた。
天空居酒屋という屋号も見えるし、ただ飛んだという過去の実績だけで無く、活かしてやろうという商魂逞しさも見えた。
永田町や霞が関を越え、日比谷公園の桜を横目に日比谷通りを進む。
「もう七割は散って葉桜になっておるのぅ」
「昨晩に雨が降ったからかも知れないにゃー」




