No.94 無限の孤独
近寄って来てくれたラザとハイタッチを交わした。
風の神であるガトーが小さく鼻を鳴らす。
「全く……地上への影響を抑えるのは骨が折れるぞにゃん。これは吾輩からの餞別だ。受け取るが良いぞにゃん」
どうやらガトーが地上への影響を止めてくれているようだ。有り難い。
急速に視力が失われ始める。光を感じる方を向き、重くなる瞼に耐えながら口を開く。
「カルカン、そこにおるのじゃろう。こちらを向いてたもれ」
「見てるのにゃ。……もう目が見えないのにゃ?」
「ふふっ、そうかぇ。もう輪郭がぼんやりと見えるだけじゃ。最後に、カルカンの泣き顔を拝んでやろうとおもっとったのに残念なのじゃ」
カルカンが妾の頭をそっと撫でる。
「何の真似じゃ?」
「私が幼い頃、父にして貰ったのにゃ。きっとぐっすり眠れるはずにゃ」
「……さようか。カルカンが父親役とはこそばゆいものじゃのぅ」
穏やかな光と温かな風。緩やかな時間が流れる。
「カルカン」
「……何にゃ?」
気の利いたことが言えれば良いのだが、意識も朦朧としてきて何も思いつかず、浮かんだ言葉だけを伝える。
「またの」
カルカンが何か返事をしたが、よく聞き取れないまま妾は暗闇の中に沈みこんだ。
どこまでも続く漆黒の闇に一人漂う。
手を伸ばしても感覚が曖昧で動かせているのかすら分からない。暗闇と自我の境界線さえも分からなかった。
(こんな孤独が永遠に続くのか?)
自分の選択とは言え、あまりの寂しさに凍えそうだ。
これが母の中なのだろうか。
大声を出して母の名を呼んでみた。けれど、声は闇に吸い込まれていき、音にならない。
(母上、ヨーコ母上! どうか応えてたもれ!)
繰り返しても虚空に響くだけ。
返事は無いが、凍えるような寒さが和らいでいく。
急速に浮上する感覚が続き、終わる頃には光に包まれていた。光の先には聞きなれた声がする。
「ヨウ、ヨウ! 聞こえるかにゃ?」
声に導かれ、妾は重い瞼を開けた。
「……カルカン?」
「おはようなのにゃ!」
目覚めて聞かされた事実。
妾の母であるヨーコは、主人格を放棄したそうだ。
「妾は母に譲られたのか?」
カルカンが大粒の涙を流し抱き着いてくる。
「カルカン、重いのじゃ」
「うるさいのにゃ! たっぷり寝ていたんだから我慢するのにゃ!」
カルカンの後ろにはオキノとリーマンが見える。
二人とも随分と様変わりしていた。




