No.92 最後の剪定
『う~? くれるござる~?』
「シーなのじゃ、出来れば内緒で食べて欲しいのじゃ」
妾は人差し指を唇の前に立て、ラザに黙って分担して貰うように懇願した。
一度キョトンと首を傾げた後、ラザは勢い良くバクバクと食べ始めて平らげていく。
封印の前に『食べ過ぎ死亡』とならなくて正直ホッとしていると、酔っぱらったカルカンが肩を組んできた。
「ヨウ、飲んでるかにゃ? 今日のために一升瓶を三百本も揃えたのにゃ。私からの餞別、全部飲んでくれるかにゃ?」
「カルカン、お主もかぇ!」
「何のことにゃ?」
料理のわんこそばを終えたのに、酒のわんこそばが始まってしまった。
幾ら飲んでも減った瞬間にお代わりを注がれる。銘柄も混ざりすぎて何が何だか分からない状態。
今もカルカンが鼻歌交じりにお代わりを注いでいる。
「これからヨウと飲めなくなる分、一緒に沢山飲みたいのにゃ。私にとって大親友のヨウにならこの酒を全部プレゼントしたって惜しくないにゃ。だから飲むにゃ」
コヤツ……泣かせてくるでは無いか。
カルカンと共に歌いながら、浴びるように飲んで飲んで飲みまくった。
「カルカン、最後くらいはリバースをせんでたもれ」
「大丈夫なのにゃ!」
カルカンは自信ありげに胸をドンと叩く。
「そうそう。ヨウが居なくなった後も盆栽の手入れは私が引き継いでやるのにゃ」
「おお、そうか。それはかたじけない」
「早速、剪定してやるにゃーーー」
カルカンは徐にハサミを取り出し、そして──。
──ジョキ。
酔っぱらったカルカンが、妾のお気に入りの盆栽の枝を切り落としてしまう。
一瞬で酔いが冷めた。
「カ、カカカ、カルカン! お主、それは……」
「てへへ、酔っぱらってちょっと手が滑ったにゃー」
「滑ったにゃーではない! そこに直れ! お主の尻尾を枝と同じにしてやるのじゃ!」
二人で始めた壮絶な追いかけっこ。一晩中笑い声が絶えず、最後の宴会を終えた。
明け方になり皆がゾロゾロと帰路についてゆく。
帰り際、皆が妾に一言ずつ言葉をかけてくれた。
「狭い二畳間から出られなかったのに、これほど多くの者が慕ってくれる関係性が、妾にも築けておったのじゃな」
「大金を落としてくれるお得意様だから当然なのにゃ」
「身も蓋も無いことをゆうでない!」
唯一隣に残ってくれたカルカンが笑顔でこちらに振り向く。
「それだけじゃないのも分かってるクセになのにゃ」
「わざわざ口にするでない! こっぱずかしいではないかぇ……」
恥ずかしさから両頬を手で覆うと、突如として空間からガトーが現れた。
「別れは済んだかにゃん?」




