No.91 善意と言う名の暴力
「妾の門出を祝って飲み明かそうぞ皆の者! 乾杯なのじゃーーー!」
「「「かんぱ~~~い!」」」
乾杯の音頭で皆が一斉に酒を呷る。これまでに茶室を訪れてくれた者たちが坪庭に勢揃い。
散々お世話になった屈強な男たちから、水回りの工事業者まで、皆が楽し気にグラスを傾けている。
オレンジジュースのグラスを掲げたオキノが妾の元まで寄ってきてグラス同士を鳴らした。
「私はアルコールが飲めないけど、今日はとことん付き合うニャン!」
昨夜は盛大にオキノに泣かれてしまった。けれど、その時に「笑顔で見送って欲しい」と要望を伝えたら力強く頷いてくれたし、約束通り今は笑顔を見せている。
今日は襖を全開にしていて、隣のラザの部屋まで料理がズラリと並ぶ。
「私、ヨウ様のために一杯料理を作ってきたニャン! 炒飯も、スイーツもあるニャン!」
さすがにチョコレート炒飯は無くて一安心。
オキノは鼻歌交じりにいそいそと大皿から料理を装う。大ボリューム過ぎて食べきれるか不安になる量を。
「す、ストップなのじゃ」
「またまた~。ヨウ様も最後なんだから遠慮しなくていいニャン。追加するニャン」
妾の身長に届きそうな盛り付け。数十キロはあるのでは無いだろうか。笑顔のまま片手で皿を支えているオキノの筋肉はヤバい。そしてまだ盛る。
「マジで無理なのじゃーーー」
「では、ここでストップして、食事に移るニャン」
「ふぐっ!」
ありとあらゆる食材を強引に口へとねじ込まれる。
これはあれだ。善意と言う名の暴力。
苦しくてどうにか咀嚼を終えた途端に新しいのが無理やりやってくる。エンドレス強制わんこそばだ。
「も、もうお腹一杯なのじゃ!」
「……私の料理美味しく無かったニャン?」
オキノが眉尻を下げ、目尻には涙を滲ませる。消え入りそうな声には、慌ててフォローをせざるを得ない。途轍もない善意ほど恐ろしいものはないと知った。
「ええい! 妾も覚悟を決めようぞ! リミッターを解放する!」
高らかに宣言して帯を外した。
どうせ最後なのだ。超えられない限界を超えてやろう。オキノのために。
だが、セーフティーネットとしてラザの近くにジリジリと移動をする。オキノに気付かれぬよう慎重に。
『う~? くれるござる~?』




