No.90 温かな風
「よって封印とは、同じ個体に統合することを指しているのだぞにゃん。法則の男神は存在を消そうとしていたが、他の四大神を始めとして吾輩たち眷属神も全員が反対してるぞにゃん」
ガトーが宙に浮かび上がり、尻尾と猫背を伸ばす。
「改めて問うぞ。ヨーコの別人格として統合するのを受け容れるか? 一度受け容れれば、二度と離れることは叶わぬぞ?」
普段付けている語尾を外し、ガトーは真剣な眼差しを向けてくる。
妾はすぐに答えられず、生唾を飲み込んだ。
別人格として統合されると言われても、正直なところどうなるのか全くイメージが掴めないのだ。
会って話をしたこともない母と体を一つにしたとして、上手くやっていけるのか自信は無いし、もし生活が合わなかったらと思うと不安で押しつぶされそうになる。
ふと、床に倒れ伏すリーマンとオキノを見やる。
凍えて死にかけている。二人の震える吐息を耳が拾った瞬間、妾の覚悟は決まった。
もう一度ガトーを正面から見据え、口を開く。
「構わぬ。オキノたちを救ってたもれ」
ガトーは小さく頷き、封印の準備を始める。妾の横でカルカンだけが騒ぎ出した。
「ヨ、ヨヨヨヨ、ヨウ! あれだけ封印を嫌がっていたのにいいのかにゃ?」
「良いのじゃ。カルカンやラザと暮らした日々は楽しかった。妾が我慢すれば救える命がある。だから良いのじゃ。それよりもすまんの。これからは晩酌に付き合ってやれるかも分からぬ」
カルカンは屈託のない眼差しで、笑った。
「盛大なお別れ会をするのにゃ!」
数日の猶予をもぎ取るためカルカンは必死の交渉をする。断られるかと思ったらガトーはあっさりと承諾した。
「どのみち一週間はかかるからな……その間、宴会に興じたとしても許してくれると思うぞにゃん」
ニヤついた顔からは、ガトー本人も宴会を楽しみにしていることが伝わってくる。
ガトーが龍脈を調整しているのか、床や壁が透明化していき、緑色の光の帯となって飴細工のような紋様を描いた。そのまま緑色の光が飽和し、空一面を覆いつくす。
大地には濃い緑のラインが毛細血管のように広がっていった。
天空赤坂の高度がゆっくりと下がり始める。それと同時に温かな風が赤坂を包んだ。
「吾輩からのサービスだぞにゃん。回復したなら吾輩への献上品として馳走を用意するがよいぞにゃん」
気温と気圧が地表付近と同じ程度に調整され、オキノたちの顔色がやっと回復へと向かう。
三日後。
赤坂は従来の活気を取り戻した。
「では、ヨウのお別れ会を始めるのにゃーーー! 乾杯にゃーーー! ぷはーー」
周囲の乾杯を待たずに勝手に飲み始めるカルカン。
こんな時までKYをやらなくても良いとは思ったが、それもカルカンらしいなと笑みが零れてしまう。
「妾の門出を祝って飲み明かそうぞ皆の者! 乾杯なのじゃーーー!」




