No.89 1cmと勘違い
妾はついにやった。龍脈を動かせた……1cmだけ。
高度の上昇は止められたが、龍脈の調整はまだまだ課題が多い。
現状では供給インフラが途絶えた状態に近く、このままだと良くないことだけは分かる。
日に日にオキノたちの懇願も切実なものとなっていた。
「ヨウ様、もう限界ですニャン」
「ヨウカン様、電力も不足してきているので凍死者が出る怖れがあります。お急ぎ頂きたく……」
急げと言われても困る。
しかし、二人の土気色の顔を見ていると否が応でも焦りは募る。
「潮時……かも知れんのぅ」
カルカンと風の神のガトーへ向き直り、深く座礼をした。
「妾の我儘で、皆を危険に晒すのは不本意なのじゃ。封印を受け容れて妾が消滅すれば皆が助かるのなら、助けてあげて欲しいのじゃ」
充分……充分だ。死ぬ前に楽しい思い出作りが出来たと思う。
涙が頬を伝い、畳にポタポタと音を立てて落ちる。
するとカルカンが慌てて駆け寄ってきた。
「ヨウは何か勘違いしてるのにゃ。別に封印してもヨウは消滅しないのにゃ」
「うむ、そうだぞにゃん。お前はヨーコの分身体のような存在だぞにゃん」
二人が妾の母のことを語り出す。
全身が漆黒の鱗で覆われたドラゴンである母は、闇の神。
あらゆるものを変質させる能力を持つ。
語られるにつれ、衝撃の事実も発覚した。
「な、なんと! 妾の父親は居ないのかぇ?」
「うむ。狐魔族と軽い接触をしただけなのに想像妊娠をしてな。何故か変質の能力を暴走させて本当に身籠ってしまったのだにゃん。カルカンから説明を受けなかったのかにゃん?」
ガトーと共にカルカンへ視線を向ける。視線の先には顎が外れたアホヅラのカルカン。
「驚いたのにゃ! 父親が本当に居ないなんて思わなかったのにゃ!」
カルカンの思い込みも発覚。妾を担当する話が来た時、「父親が居ないなんて可哀想」と回ってきた資料を斜め読みしかしていなかったようだ。
二重人格が別々の体を持ったような状態に陥った妾と母は、それぞれに魂を持ってしまった稀有な事象とのこと。
ガトーが風でふわりと宙に絵を描く。空気なのに何やら色がついて薄っすらと図のような感じの物が浮かび上がる。
「よって封印とは、同じ個体に統合することを指しているのだぞにゃん。法則の男神は存在を消そうとしていたが、他の四大神を始めとして吾輩たち眷属神も全員が反対してるぞにゃん」




