No.88 江戸川を渡る
「良い。誠意は伝わったにゃん。では、吾輩が直々に龍脈調整の極意を教えてやるぞにゃん」
そうして緑色の猫の見た目をした風の神との猛特訓が始まった。
「ヨウよ、そのへっぴり腰はなんだにゃん! もっとグッとやってシュパパでグワーッって感じでやるんだにゃん!」
凄まじい擬音祭り。
カルカンに音楽講座をして貰ったときのデジャヴを感じる。
天才で感覚肌なやつらは説明がとことんヘタだ。
途方に暮れて項垂れると、頭の上からさらなる叱責が飛んできた。
「それでもヨーコの娘か? だらしないぞにゃん。さぁ、もう一度挑戦だにゃん。最初はピッ、次にシュバババー、それからググッとしてグッ! だにゃん」
何が違うのかもう分からない。これなら独学でやった方がまだマシなのでは無いかとすら思えてくる。
数日は真面目に取り組んだのだが、結果は全く見えてこない。方向転換が必要だろう。
風の神のガトーへ陳情してみる。
「妾はマナ操作が不得手なゆえ、ガトー様の卓越したお手本を少し見てみたいと思うのじゃ」
「む? 吾輩の優しくて分かり易いアドバイスで分からないとは……センスが壊滅的すぎるぞにゃん」
色々と不満を零されたが、どうにか手本を見れる流れに持ち込んだ。
今の空中庭園赤坂は、江戸川の上空を渡り既に千葉県へと突入している。船橋付近だろうか。一先ず江戸川を目印にする提案をしてみた。
「ではいくぞにゃん。良く見ておけ! ピッ! シュバババー! ググッ、グッ! もいちどグッ! シュパパグワーッだぞにゃん!」
何故かコツを口にして叫んでいる。地上の方でも変化が現れ、大嵐が吹き荒れて大災害の様相。
だが江戸川を渡り、江戸川区上空辺りまで移動できた。
「おぉ、凄いのじゃ。この調子でもうひとつの川を渡れんかの? もう一度、赤坂を動かしてみて欲しいのじゃ」
「む? 何を言っているのだヨウよ。吾輩が動かしたのは赤坂ではなく龍脈だぞにゃん。まぁ、その影響で地軸が少し傾いたようだにゃん」
龍脈を動かした派生影響で地球の方が動いたらしい。
つまり龍脈を動かすには、地球を動かせるほどのマナが必要ということ。
「妾にはそんな膨大なマナが無いから無理なのじゃ」
弱音を吐くと、ガトーは尻尾を立てて心底驚いたような表情をする。
「何を言ってるんだにゃん? お前の持っている潜在的なマナは吾輩やラザよりも上だぞにゃん。それに吾輩が先ほど見せた手本は、マナが少なくてもやれる方法だぞにゃん」
龍脈とは地球のマナの流れ。人で言うところの大動脈だ。力業で動かそうとすると多大な被害が出るらしい。
「先ほどの地軸変動は龍脈の変化に体が適応した反射のようなものだぞにゃん」
説明をしながらヨーグルトを飲むガトー。
いかにも朝飯前といった感じで地軸変動を誤差と言い切る様子に、神様という存在の不条理さを思い知らされた。




