No.87 陳情と賄賂
「偉大なる風の神よ。こちらの品は如何でしょうか?」
リーマンが差し出したのは子供向けの武者兜。そのような品で物欲を満足させられるのか不安になり、緑色の猫を見やる。
「うむ。実に良いぞにゃん。吾輩の頭でも被れるサイズで嬉しいぞにゃん!」
セットで渡した軍師が持つ軍配を振り回して、楽し気にしている。狭い二畳間で振り回すのは正直やめて欲しいがここは我慢のしどころ。
続いてオキノが持参した物を差し出す。
「私が用意したのはこれニャン」
「食べ物か……吾輩は物として残る品を求めているぞにゃん」
「物として残るニャン! ほらこのビールジョッキも!」
そういってオキノはビールが並々と入ったジョッキを傾けた。だが、ビールは零れださない。
「む?」
「こっちもニャン」
炒飯の皿やラーメンの器もひっくり返すが、いずれも落ちずにくっついたまま。
「面白いぞにゃん! これはなんだにゃん?」
「私のバイト先の店にあった食品サンプルですニャン。世界平和のために横領させて貰ったニャン!」
堂々と胸を張り言い切るオキノ。横領はどうかとも思うが、氷点下56℃の気温をどうにかしたいという熱意だけは伝わってくる。
緑色の猫は満足そうに一つ頷き、カルカンを見た。
「で、カルカンよ。お前は何を用意してくれるのだにゃん?」
問われたカルカンは血の涙を流しながら大量のビールを差し出す。
「私は現世に物を持っておりませんにゃ。今、お出しできる精一杯の誠意、受け取って欲しいですにゃー」
「お前がビールを差し出すとはな。まぁ、飲めないからそれだけ必死という訳かにゃん」
演技ではないガチの涙を見て譲歩を引き出せたようだ。
ふいに緑色の猫と目が合う。
「ヨーコの娘は何をくれるのかにゃん?」
ゲーム一式を受け取ったのにまだ何か要求してくるらしい。あのカルカンがビールを差し出したのだ。妾も身を切る思いで大切なものを差し出すしかあるまい。
梯子を登り、二階にあった自慢の盆栽を抱えて一階に戻る。
「妾の盆栽で最高級の品じゃ。億に届く逸品なのじゃ」
妾の真心。どうか届いて欲しい。
しかし、緑色の猫は尻尾を下げて鼻を鳴らす。
「つまらん。ただの木は要らないぞにゃん」
突っ返されてしまった。妾の盆栽にかけてきた日々を全否定された気分になり、憤りを覚えたが心を殺して耐える。
「良い。誠意は伝わったにゃん。では、吾輩が直々に龍脈調整の極意を教えてやるぞにゃん」




