No.82 最強器具の魔窟
「いや、そこは台風のこと話さんかぃ。のぅカルカン?」
「…………」
カルカンからは哀愁が漂う。耳も尻尾もしなだれて目には生気が全くない。
さすがに可哀想になってきた。
妾は炬燵から立ち上がり、隣の部屋の襖を開ける。
「ラザよ。龍脈の調整の仕方を教えてくれんか。カルカンのために必要なのじゃ」
『う~? ごはんござる~?』
「どうかこの通りじゃ、教えてたもれ」
妾はラザに深く座礼をした。
カルカンは大事な友人だ。長い間、楽しい時を二人で過ごしてきて親友と呼べる存在。いつものやり取りをしたい。
チラリとラザの様子を盗み見る。
『分かった~ござる~』
そうして妾とラザの秘密特訓の日々が始まった。
ラザの使う神の力の【伝心】で共有して貰ったが、途轍もないマナが必要なことだけは分かった。今まで無自覚だったマナという存在は制御するだけでも難しく、すぐにどうこう出来るとはとても思えない。
「むぅ、4~5年はかかるのじゃ。カルカン、頑張って待っておれ」
そう発した瞬間、坪庭の向こうから大声が届く。
「待っておれじゃないニャン!」
「そこまでは待てません!」
現れたのは猫魔族のオキノ。それから、以前の火事騒動のときに名刺を貰ったリーマン男だった。
二人とも随分と服を着こんでいて、ガタガタと震えている。
「寒すぎるし息も苦しいニャン! 早く降ろして欲しいのニャン!」
「高度10,000mを超えています。もう限界です」
確かに肌寒くはある。気温は氷点下56℃を指しているので、急ぎたいのは分からないでもない。
「妾も急いでおる。お主らも限界を超えて頑張ってみよ」
「無理ですニャン! ヨウ様や神様たちと一緒にしないで欲しいニャン!」
「ヨウカン様……限界は超えられないから限界なのですよ」
普通の人間には耐えがたい気温なのか、二人からは猛抗議をされてしまう。
寒くては思考も鈍るというもの。一先ず魔の空間へ誘ってみる。
「そこでは寒かろぅ? 炬燵に入らぬか? 蜜柑もあるぞぇ」
「入るニャン!」
「お邪魔致します」
現在の高度ではエアコンも役に立たない。
炬燵こそ最強暖房器具だと証明された。
そして入ると二度と抜け出せない魔窟なのだ。
「あったかいニャン! 炬燵最強ニャン!」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
目も心も死んでいるカルカンはさておき、オキノとリーマンとトランプをしながら話が盛り上がっていく。
「まるで修学旅行みたいで楽しいニャン」
「ほぅ、オキノは修学旅行を経験済みかぇ?」




