No.79 来世の夏コミ参加
「カルカン、何か偉いことになったのかぇ?」
「……夏コミに参加するらしいのにゃ」
妾も住んでいたカービル帝国で行われている夏コミのことだと思うが、ここまで落ち込むのは少しおかしい。
「水の神は妾の母と一緒に毎年参加しておったのじゃろぅ?」
「日本の夏コミに参加するらしいのにゃ」
なるほど。
こちらの世界に遊びに来ると言われてカルカンは項垂れているようだ。
このような雰囲気のままでは気が滅入るし、有益なアドバイスをしておく。
「夏のことは未来の自分に丸投げして今は楽しく飲まんかぇ?」
「それもそうにゃ。ぷはーーー! 来世の私、頑張ってくれなのにゃーーー!」
その言い分だと1クールもしたら現世を飛び越えて来世になってしまうが、そんなことは置いておき、一先ず妾もご相伴に預かることにした。
「このビールは旨いのぅ。ほれ、カルカン。テレビで桜の映像が流れておるぞ」
上空から見る桜も乙なもの。上野公園と日比谷公園が良く見える。
映像を見ていると、あることにふと気が付いてしまう。
「む? 何故、その二つの公園が西側に見えるのじゃ? ひょっとしてこの天空城赤坂は東に流れておらんかの?」
言った瞬間に分かった。それが途轍もない爆弾発言だったことを。
何故なら普段のカルカンではあり得ないことに、グラスを落としてビールを零しても、それを気にした素振りも見せていない。
妾は思わずごくりと喉を鳴らした。
「カルカン、大丈夫かぇ?」
返事はない。ただの呑兵衛のようだ。
仕方が無いので襖を開け、隣の部屋で微睡んでいたラザに質問してみる。
「ラザや。妾が赤坂の元の地から遠く離れたらどうなるのじゃ?」
『動くのダメござる~』
「じゃから物の例えじゃ。過去に禁忌を犯したときに四大神からどういった神罰があったのか教えてたもれ」
ラザが少しだけ悲しそうな顔をした。いつもと違う表情をスマホで撮影したいと思ったが、取り出す前にとんでもないことが突き付けられた。
『動いたことに関わった人も、それを見た人も全部まとめて消されるござる~』
存在も痕跡も記憶も全てまとめて無かったことにされるイメージが流れてきた。
カルカンやラザばかり相手にしていたから、神と言ってもそこまでのことをしないだろうと高を括っていたのだが、四大神は容赦の無い神に思えた。
慌ててカルカンの両肩を掴み、激しく揺さぶる。
「カルカン! カルカン! しっかりせぇ! どうにかして今すぐ元の場所に戻すのじゃ!」
「…………」
ピクリとも動かないカルカンを、妾は必死に揺さぶり続けた。




