No.76 鍋奉行と裏切りと正しい生贄の捧げ方
「オキノ氏、ちゃんと聞いているのかにゃ!」
オキノは遠い目をしていて焦点も合っていない。なのにカルカンの日本酒語りは止まらなかった。迂闊に助け舟を出せば妾に飛び火するだろう。なので素知らぬフリを決め込み、テレビをつけて現実から目を反らしていた。
「ほほぅ、ドローンでの輸送を始めるのか。ふむふむ、いつ降りてくるのかは妾も知りたいぞ?」
「何をヨウはブツブツ独り言を言ってるのにゃ?」
ようやくカルカンの講座が終わったようだ。今回は3時間コースか。意外に短時間で終わったようで何より。
「ほれ、カルカンもニュースを見てみぃ。軌道エレベーターなんぞ無くてもドローンで運べるようじゃぞ?」
「んにゃ? 軌道エレベーターは物を降ろす方で必要なのにゃ」
カルカンが食事時にする話では無いから避けていたと言いつつ説明してくれた。
妾たちが生活して出た生活排水を溜め込んで置けないから地上に降ろす必要があるらしく、撒き散らす訳にもいかないからケーブルを地表に垂らしてそこ経由で降ろすとのこと。
確かに食事時に聞く話では無かった。
同意を求めるようにレイプ目をしているオキノへ話しかけてみる。
「オキノよ。もう鍋という気分でも無いのぅ。ん? どうかしたのかぇ?」
「ヨウ様は嫌いですニャン……私が大変なときに助けてくれなかったニャン」
助け舟を出さなかったことを根に持っているのだろうか。
「いや、オキノよ。あの状態で変に口を出すとさらにカルカンは止まらなくなるのじゃ。許せ。それから、ビールのときはもっと発言に気を付けよ」
「ビールなんかにあれほど語ることあるのニャン?」
言った傍から大変なことを口走るオキノ。
カルカンの眼光はギラリと鋭く光った。
「全く、オキノ氏は無知すぎるのにゃー。そんなに聞きたいのならしょうがにゃいにゃーー」
カルカンがくねくねと体に謎のしなを作りながら近づいてきた。気持ち悪い。
「……私は気分が優れないから今すぐ帰りたいニャン。カルカン様の有り難い話はヨウ様が聞いてくれるはずニャン」
「カルカンや。オキノはマンツーマン指導を求めておるようじゃ。徹底して教えてやるが良い」
オキノが妾のことを「え? 何コイツ信じられない!」という顔で見てくるが、先に妾を売ろうとしたオキノにそんな目を向けられても困る。妾は慈愛の微笑みを返しておいた。
カルカンが、オキノの背後から彼女の肩を掴む。
──そして二日後。
「もう御二人とは飲みたくないニャン! これは立派なアルハラなのニャン!」
40時間の耐久ビール講座がやっと終わったようだ。




