No.75 軌道エレベーターを急ピッチで
「お、この椎茸はもういけそうなのじゃ。オキノ、次を投入せい」
「はいニャン!」
「ストーップなのにゃ! まだ投入は早いのにゃ!」
妾たちはオキノをゲストに迎え、鍋を囲んでいる。
……空飛ぶ赤坂の居城から。
この茶室に窓は無いが、ニュースでは連日眺めの良い報道が続いている。
「しかし、テレビも飽きぬもんじゃな。もう二週間ぞ?」
「ここの白滝を全部救出したなら次のキノコ類を投入しても良いのにゃ。その後に葉物野菜を追加するにゃ」
カルカンが執り仕切り、オキノが鍋の食材を調整していく。
鍋をするようになって気付いたが、カルカンは完全に鍋奉行タイプだ。普段は酒以外にこだわりを見せないくせに、鍋だけはやたら語るし、正直うるさい。
「そこ! うるさい言うななのにゃ!」
「妾は口にしておらぬ! 勝手に心を読むな!」
カルカンが張り切る豚の味噌鍋は、妙に上品な味が後を引く。最初、豚ロースだけだったことに文句を言ったのだが、確かに今の出汁であればバラ肉は合わないかも知れない。昆布と鯛出汁ベースに上品な風合いの白味噌があわさり、まるで料亭のような味が日本酒に良く合う。
外界との連絡を絶たれてしまったと思ったが、カルカンが食材の行き来はどうにかしてしまったらしい。現場を直接は見ていないのだが、テレビで確認した限りでは金色の光に包まれた食材が空に飛び上がっていくシュールな光景が映っていた。
「軌道エレベーターの完成はいつになるのじゃろうな? 佐賀は旨いのぅ」
「これ佐賀のお酒なのニャン? 佐賀ってどこにあるか良く分からないし日本酒の印象も無かったけど、凄く美味しくて見直したニャン!」
オキノがさらっと禁句を言ってしまった。妾は小さく溜息を吐いてオキノたちから視線を反らす。すると案の定、カルカンが烈火の如く騒ぎ始めた。
「オキノ氏! 佐賀の日本酒力を低く見積もるなんてあり得ないのにゃ! それに鍋と言ったら欠かせないのにゃ!」
それは単に銘柄名では無いかと思っても、口にしてはならない。カルカンは酒を語らせると本当にうるさいのだ。
「ほら! そことそこ! うるさいとか面倒くさいとか日本酒に対して失礼にゃ! 私が佐賀の歴史から紐解いて説明をしてやるから有り難く聞くのにゃ!」
こうして心の中まで覗いて苦言を呈してくるのでたちが悪い。カルカンの怒濤の蘊蓄が続く。知識が酒の一点だけに突き抜けているのが問題と言えば問題。恐らく四大神とやらもその熱心さを神としての責務に当てて欲しいと思っているに違いない。
「オキノ氏、ちゃんと聞いているのかにゃ!」




