81.鉄切りの真宗
鉄切りの真宗こと、真原宗三は、もとはシステムエンジニアとして働いていた。
妖魔としての血は微量、一般人として生きていたが、上司からの執拗なパワハラにいつも悩まされていた。
彼の仕事に常に難癖をつけ、机を叩きながら些細なことをさも大きなことのように怒る上司に、ビクビクしながら仕事をしていた。
ある日、いつものように上司の理不尽な叱責を聞いている時、彼は突然、前後不覚となった。
気づくと、彼の五本指が綺麗に上司の側頭部に刺さっていた。
何が起こったのかは自覚できなかったが、上司を黙らせたことは理解でき、ひどく晴れやかな気持ちになった。
周囲が救急と警察を呼び、彼は傷害罪の容疑で連行された。
留置場で一夜を明かした翌朝、警察署に面会に来たのが、雨神楽源二、錦の父だった。
警察でベテランの者がいたのだろう。凶器も使用せず、人間の頭を指で貫くなんて、妖魔の仕業と疑い、雨神楽家に連絡したのだ。
真宗は源二の複数の質問に答えた。
その日から源二は2日おきほどに警察署に現れ、彼に質問した。
その後精神的なストレスが原因だとか、よくわからない理由で、どういう訳か真宗は無実となり、釈放された。
司法手続きがどうなったのかは、不明だ。
彼は警察署を出た足で、源二とともに彼の家に行った。
その日から、彼は錦という源二の息子とともに、破邪士としての修行をすることとなった。
源二は真宗の犯行について警察から聞いた時、心気か妖気を使ったものと直感した。
何度か本人と会ってみると、どうやら妖魔ではないほか、人格的に問題もない。精神が追い込まれた事情もわかる。
そこで伝手を使って国組織へ働きかけ、司法・警察に手を回し、慢性的な人手不足の破邪士の世界に彼を勧誘したのであった。
真宗には、素質があった。
当時13歳の錦より10は歳上だったが、飲み込みが早く、すぐに実戦に出るようになった。
実戦のセンスも天才的だった真宗は、もう1人の神童、錦とともに、メキメキと腕を上げていった。
真宗は、自分がどんどん強くなる上昇感に、のめり込んでいった。
四六時中修行し、自らを鍛え上げていったが、いつしか伸びに限界を感じるようになった。
そんなある時、錦と真宗は、当時の彼らには手に負えない強敵、酒呑童子に出会った。
圧倒的な妖気と幻術に、2人は苦しんだ。
逃げるしかないと判断した真宗は、自身が時間を稼ぎ、先に錦を逃そうとした。
しかし錦は戦闘の継続を主張し、酒呑童子への攻撃をやめようとしなかった。
やがて、酒呑童子は疲れの見えた錦へ、妖気を凝縮した巨大な氷柱を飛ばした。
避けきれないと悟った錦は死を覚悟したが、そこへ真宗が割って入り、身を挺して錦を守った。
腹部に風穴が空き、真宗は死を覚悟した。
しかし、人生を踏み外した自分を拾ってくれた源二への恩と、一緒に修行してきた錦への想いから、後悔はなかった。
ただ自分に駆け寄ろうとする錦を、この場から逃さないといけない。
真宗は最後の力を振り絞り、錦を己の心気で包み込み、雨神楽家の方向へ遠く弾き飛ばした。
錦はなす術もなく、戦線を離脱していった。




