6話 国王陛下 その2
「それでは父上、まだ両公爵家の婚約を認めるか否かについては保留状態ということですね?」
「そういうことになるな。ネフィラ嬢やその家族にとって、何か直接的な被害が出るとも考えづらいので、まだ検討段階だということだ」
国王陛下の考え……それを聞けて私は少し安心していた。もしかすると、簡単に婚約が認められたりしないか不安ではあったから。それに国王陛下が言ってくれた、私のことを娘にも近い存在と思ってくれている、と言う言葉は非常に嬉しい。
私の安全を第一に考えてくれていることが、ひしひしと伝わってくるし……それはそれで、非常に申し訳ない気持ちにはなるけれど。
「父上……しかし、これでハッキリしたことがございますね」
「そうだな。ネフィラ嬢に婚約破棄を言い渡したハルベルト家は、王家を敵に回したということだ」
「……」
セシル王太子殿下とジルカド国王陛下の想いが、完全一致したような雰囲気になっていた。スタイン様はこれから大変かもしれない。
「さて、せっかく来てもらったところ申し訳ないのだが、ハルベルト家とフォルブース家の婚約に対しての回答はまだ用意出来ていないのだ。どうする? 昼食でも食べていくか?」
「せっかくのお申し出ありがたいのですが、私はリードフ・ハルベルト公爵、カルカロフ・フォルブース公爵に話を聞きたいと思っております。現在、どのように感じているのかを」
「ほう、なるほどな。確かに国王である私が直接聞くよりも、王太子であるセシルが聞いた方が良いかもしれんな。相手の緊張感と今後のお前の経験の為にも」
「はい、そうですね」
なんだか、凄い話になって来ているような気がするわ。ここに来て、両公爵家の当主の名前が出るとは思ってなかった。
リードフ・ハルベルト公爵はスタイン様の父親になる。私もスタイン様との婚約の際に顔を合わせているけど、もう一人のカルカロフ・フォルブース公爵とは会ったことがない。こちらは、マーシオ様の父親になるわね。
「ハルベルト公爵はともかく、フォルブース公爵に関しては今回の婚約が、理不尽な婚約破棄の上に成り立っているということを知って、何も感じないとは思いませんので……その娘である、マーシオ嬢にも同じことが言えますが」
「確かにセシルの言う通りだな。カルカロフやマーシオ嬢といった者達も、私はよく知っている。なかなか良い印象の者達だ。ひょっとしたら、ネフィラ嬢とマーシオ嬢は友人関係になれるかもしれん……そんな考えを持った程だからな」
意外にもマーシオ嬢やその父親であるカルカロフ様の印象は悪いものではないらしかった。あくまでも、ジルカド国王陛下の印象としては、という意味なのだろうけれど。
「では国王として命ずる。セシルよ、己の今後の見聞を広めることも視野に入れ、ハルベルト家、フォルブース家の当主から彼らの考えを聴取してくるのだ」
「畏まりました、父上」
「あの……私も同行させていただけませんでしょうか?」
「ネフィラ嬢も同行か?」
「は、はい……やはり同行のご許可はいただけませんでしょうか?」
「いや、ネフィラ嬢は今回の件の当事者だ。聞く権利は十分にあると言えるだろう。セシルに同行するのは構わないさ」
「ありがとうございます、ジルカド国王陛下!」
私自身の見聞を広める、という意味ではないけれど、今回の件は最後まで見届けたいと思ってしまった。何よりも王家の方々だけに頼るのはどうかと思うし。
私は私の出来る範囲で頑張ろうと思ったのだ。