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「……そ、そうであったか……。うむ。重畳である。……しかし、なぜ、かような不作法をいたす?」
「お父さまへの面会がかなわない現状、やむに止まれず、このようにまかり越しました」
そう言い、セルアは貴婦人の礼をする。
しかしそれは、最高権力者に対してのものではなかった。
恭順を示す最敬礼でなく、社交的な挨拶に過ぎない形を敢えて取った。
当然ながら、バルモア三世は、いささかならぬ不快を覚える。
そもそも、いかに隣国に嫁いだとは言え、王女たるセルアの立場ならば、父王と会う場合は、面会などでなく、謁見となるのである。
承伏しがたい思いが強いが、バルモア三世を君主として扱っている部分ばかりは、無視もできない。
娘のエテルティア(認識が不徹底なので、彼は妻のレスニアとの共謀であると捕らえているが)による事実上の軟禁状態にあって、最高権力者としての諒知がなされていると言えない現状である。
隣国の皇帝の妃たる身に、その立場を安堵されるのに、有名無実の矜持を以て縋り付かずにいられない。
「して……何用じゃ?」
含むところはあれこれあるが、取り敢えず虚勢を繕ったバルモア三世は、娘へ到来の目的を問い質す。
セルアは瞬き、口を開いた。
「降伏勧告に参りました。王の名において、速やかに敗北を宣言し、主権を放棄なさいますよう」
「なっ……!」
さすがのバルモア三世もいきり立った。
咄嗟にモルティスが剣を構えて威嚇する。
「うっ……」
セルアはしなやかな動きで、彼を制した。
「ど、どう……言う、ことなのじゃ? 一体……」
動揺するバルモア三世は、しかし必死に平静を繕う。
セルアは軽く肩を上下させた。
「現在……貴国は、我がイブリールと戦闘状態にあります」
ティアモラをすでに祖国扱いしていない言いようである。
しかし、バルモア三世にとっては、取り沙汰すべきものではない。
より以上に、心を捕らわれる大事が横たわっていた。
「……っ! 王たる余の布告もないまま、戦が行われていると言うのかっ!」
尋常ならない……いや、あってならない推移だ。
ここに至って、ようやくバルモア三世は、祖国が有事のただ中にあると知ったのである。
以前、確かにエテルティアが敵なる単語を突き付けたのだが、あまりにも愚かな蒙昧ぶりで、彼は全く頓着していなかった。
何にせよ、予想だにしていなかった事態だが、最高権力者を蚊帳の外に置くなど、断じて許されるはずがない。
「偽りなど申し上げてどうなりましょう?」
セルアは淡々と応じる。
わずかな動揺もないその姿に、一層バルモア三世の感情が煽られた。
落ち着き払い続けるこの娘は、一体何を考えているのかと、不気味ささえ覚える。
また、剣を構えたままのモルティスにも恐怖を煽られた。
バルモア三世は、懸命に思考を巡らせるが、いかんせん、あまりにも状況が理解できていない。
「発端は何じゃ! 一体、誰が余に断わりなく、宣戦布告など行ったものかっ!」
戦略発動権は神授の資格とされており、君主のみが有するものとされていた。
いかに軟禁状態にあると言っても、他者に委ねられる性質の権限では断じてない。
「……わたくしでございます」
セルアは、なおも静かに応じる。
「っ!」
バルモア三世は硬直した。




