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セルアは、胸元に手を当てて更に告げる。
「このわたくしが、伴侶であるレスヴィック陛下の御名において、貴国へ宣戦布告を行いました」
嘘偽りない真実であると、無論、バルモア三世も理解した。
「……な、……な、ぜ……じゃ?」
「…………」
愕然とする中で零れたそれは、当然の疑問だろう。
イブリールに嫁いだとは言え、セレスティアは、王女として、この国に生まれた事実があるのだ。
曲がりなりにも故郷である祖国に対して、それも夫の名を用いて戦闘開始を宣言する必要などあるのかと、何も理解できていないバルモア三世が疑問を持つのは当然だった。
セルアは、わずかな沈黙の後、口を開く。
「……第二王女エテルティアが、あなたを幽閉状態に導いた旨は、わたくしも存じ上げております。国政を担うに至った彼女は、我が国の前宰相閣下を殺め、更には、わたくしの夫をも標的といたしました」
「!」
がくりっ……! と、バルモア三世の肩が落ちる。
他国への干渉……いや、そのような可愛いレベルの話しではない。
宣戦布告に足る重大懸案である。
それも、非は、一方的にティアモラにある。
……セルアの告げる一切が真実ならば。
そして、バルモア三世は、否を告げられなかった。
現状の立場がどうあれ、彼にも君主として一国を差配するだけの能力はあるのだ。
より以上の器の主たるエテルティアに実権を奪われてはいるが、判断する力を失った訳ではない。
「幸い、レスヴィック陛下は一命を取り留められましたが、政務を執り行えない状態となり、妃のわたくしが名代となって、貴国との交渉に当たる次第となったのです」
ここで事細かな説明をする必要などないため、セルアは大まかな流れだけを告げた。
「調査を経て入手した明確な証拠を突き付けてなお、貴国側から納得の行く釈明も謝罪もなかったために、イブリールは宣戦布告を行った後、連戦連勝を重ね、今やヴァストォールを包囲するに至っております」
「! 包囲、じゃと? この都をかっ?」
セルアはうなずかず、モルティス副元帥に首を向ける。
彼はしっかりと同意した。
バルモア三世は、寝台の上にあってよろめく。
モルティスが、主君に変わって状況を説明しはじめた。
無論、警戒は解かず、依然剣を構えたままだ。
「現在、ヴァストォールは完全な籠城状態にございます。すでに、多く領地や主たる街道は我がイブリールが制圧済みですので、援軍の期待はお持ちになられませぬよう。他国についても同様で、此度は貴国に明確な非があるとの認識の上、各々、介入を控える声明を出しておられます」
明瞭に告げられる解説が、ティアモラの窮状を浮かび上がらせる。
正に孤立無援。
諸国いずれもが、イブリールに理を認めたのなら、ティアモラを擁護する意志がない旨が明かだ。
また、まだ若いモルティスだが、軍内においてかなりの高位にある存在だとも、バルモア三世は看破した。
一応なりとも一国の主である。
まとう装束に左右されない資質の優劣ぐらいは容易に見て取れる。
つまり、一角の者に傅かれるセルアの立場が、皇妃として揺るぎない状態にあることも、モルティスの告げる言葉に偽りがないことも、共に理解した次第である。
「な……何と言う……」
「……全ては、エテルティアの差配の結果と、……わたくしは受け止めました」
セルアは、小さく息を吐いた。
実際、その通りである。




