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国母セルア  作者: 小松しま
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 セルアとモルティスは、一般的な市民に変装して、城壁の隠し通路に分け入った。

 地下牢を介した抜け道が作られているのだ。

 彼らを迎えてくれるのは、かつてロールウェルでセレスティアを見送った有志の一人だった。

 かの人々の約半数が、今、ヴァストォール城下にて、セルアのために奔走している。

 城へ潜り込んだ者もおり、その協力で二人は秘密通路を用いて侵入を果たす手はずになっていた。


(まさか、自国の民……それも、自らの領民が、敵国元帥のために、これほど尽力しているとは……エテルティアも思ってもいないだろう……)


 松明の光りを頼りに、石積みの暗い地下牢を歩きながら、セルアは苦笑する。

協力者たちは、先導を務めてくれる青年のように、ティアモラに潜伏するロールウェル領民だけではない。

 セルアの志に感銘を受けたサザルの若者たちの多くも、国中に散って、イブリールの正当性を訴えてくれていると言う。

 結局、民は、支配者の血筋でなく、その姿勢を、自らの忠誠心を捧げるに足るか否かの判断の材料にするのだろう。

(ティアモラは滅びる……)

 現状を鑑みれば、セルアでなくとも、識者ならば誰もがそう断じるはずだ。

 民は君主でなく、他国の勢力に与した。

 それも、脅しや懐柔でなく、自発的に。

 もはや、国が国であるための大前提は失われている。

(内から、外から……瓦解は、もう止められない)

 滅亡へ続く流れを、せき止める力を持たない国。

 それに乗じて攻め入った隣国が、呑み込むのは歴史の定石ではある。

 だが……。

(……!)

 セルアは唇を噛み締めた。

 これは断じて他人事ではない。

 いつかの未来、イブリールにも起こり得る事態なのだ。

 その歯止めは、結局、民そのもの以外にあり得ない。

 自国を支える人々より背かれる君主は哀れだ。

 その哀れさは、自らの生命を捧げてすら、払拭されるものではない。

 愚かな前例が、今、目の前に展開している。

 せめてこれが、未来の子孫たちにとっての教訓になって欲しいと、こいねがうばかりだった。



 王城への侵入は、充分な手回しが行われていたため、実にスムーズに果たされる。

 そして、王の軟禁される部屋へもだ。

 就寝時間を迎えたバルモア三世は、突然の侵入者に目を丸くした。

「……誰、じゃ?」

 しかし、この期に及んで、危機感の欠如は免れまい。

 粗末な身なりの青年が二人、いきなり開いた壁から現れたのに、寝台に上体を起こしたまま、警戒すら示さないのだから。

 ちなみに、ここまで案内をしてくれたロールウェル出身の青年は、松明ごと、秘密通路に待機せている。

 無論、彼は供をすると言って聞かなかったのだが、脱出の際、この回廊を再び使うはずだから、そちらの死守をするようにと命じられて、指示に従ってくれた。

 幾ら心意気があっても、高度な戦闘訓練を受けたモルティスと同様の働きを一市民に期待できるものでない。

 いよいよの場合は、足手まといになってしまうため、何よりも彼の安全を確保しなければならなかった。

 セルアには、協力者の誰一人として、無駄死にさせるつもりはないのだ。

 そして、これより先に繰り広げられる父との会話を、市民たる存在に聞かせるのも危険過ぎた。


「お久しゅうございます、お父さま……」


 モルティスを残し、暗がりから一歩出たセルアは、枕元の燭台の光りが届く場へと進む。


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