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ヴァストォール城内で連日繰り広げられる閣議に、訃報が飛び込んで来た。
本日の戦闘において、上級将軍が戦死したと言うのだ。
それを伝えたのは、同じ戦場で指揮をしていた副元帥である。
親戚関係だったため、彼はどうにか回収した遺体を伴い、元帥の指示で遺品共々城内の未亡人へ届ける運びとなったのだが、その整理の最中、驚くべき発見があった。
……かつてラーダが提出した献策の書状が寝台に隠されていたのである。
それを目にした副元帥は、絶句した。
かつてない、あまりにも見事な、完璧な布陣と攻略法だった。
もし、開戦直後に用いていたのなら、以降の展開は全く異なるものとなっていたに相違ないと確信する。
急ぎ元帥にそれを見せたところ、彼の意見も同様だった。
結果、副元帥は、遅まきながらも帰城に乗じてラーダに助力を願い出た次第である。
議場に居並ぶ一同は、その訴えを聞いて、困惑のざわめきをあげた。
詳細な事情は定かでないが王女の不興を買ったらしいかの騎士は、この場への同席も控えるようになって久しい。
取り急ぎ、呼び寄せられた騎士ラーダは、居並ぶ面々に恭しく一礼をした。
いついかなる時、どのような相手にも、彼は姿勢を変えない人間だった。
評価されるべき特質だが、それを煙たく思う輩が多いのもまた事実だ。
事実、大半の人間は軽く目礼を返したが、王女の取り巻きを気取る若者たちは、完全に無視した。
取り合いもせずに、ラーダは、玉座に腰掛ける王女へも挨拶を試みたが、エテルティアもまたそれを黙殺する。
ラーダは吐息を堪えて、両手を広げる副元帥に向き直った。
「そこもとのような優れたる武人を看過していたのが、惜しまれてならぬ。こちらへのお出でをお待ち申し上げていた間に、御一同より、過去の献策の数々を拝見仕ったが、これがいずれも心服もの。さぞや名のある師より学ばれたのではあるまいか?」
「……いえ。……田舎の領地にての、史書を片手の独学に過ぎませぬ」
ラーダは常のように謙遜する。
「何と! 全く……かような逸材が埋もれていたとは!」
「はっ……。何が逸材だか!」
ひたすらに持ち上げる副元帥をあげつらうように、エーデライト侯爵が皮肉を告げる。
いかにも軽薄さの滲み出る、そこそこの容貌の主たるこの男は、最近になってエテルティアの傍らを陣取る機会が多くなった、何代目かの取り巻き筆頭だ。
「こやつの奏上の一切は、机上の空論に過ぎぬと、亡き上級将軍閣下も断じておられましたぞ」
「いかにも」
「うむ」
同意するのは、サーガル子爵にレスト子爵だ。
いずれも「輝き」が感じられない浮わついた面相を持った、王女の花婿候補を気取る青年貴族たちである。
「一見尤もらしい策であっても、実体の伴わぬままごとのようなもの」
「ま、素性の賤しい流れ者に、大局を見極めるなど、到底かなうまいが」
「し、しかし……。ラーダ殿の提案を受け入れていたならば、イブリールの奇襲を防げたであろうと思われる例は、枚挙に暇がございませぬぞ」
年配の重臣の一人が、精一杯の覚悟で告げる。
「そ、そうじゃ! ラーダ殿の発案を実行しておれば、被害は最小限で済んだはず。それらを全て握り潰しておられたのは、御仁たちであろう!」
同調する意見も出されたが、彼らはそれさえも軽くあしらった。
「馬鹿馬鹿しい。単なる偶然だろう」
「いや……。あるいは、採用されなかった腹いせに、イブリール側へ情報を流していたのかもしれぬな」
「なっ……!」
ラーダを擁護した重鎮たちは、目を丸くする。




