表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DREAM DIVE ERROR 漆黒のイカズチと血薔薇の戦姫  作者: 知恵利一
第2章:「漠着」―漆黒の執行者―
5/9

第5章:ドリームダイバーの光と影

第4章の衝撃的な結末をご覧いただき、ありがとうございました。

第5章より、物語は【組織反逆編】へと大きく舵を切ります。

表向きは「光の騎士」として称えられながらも、裏では組織の禁忌のアーカイブを暴く風月と火楽。

そんな二人の前に現れるのは、身内の欺瞞が生んだナイトメア【鏡像の簒奪者ミラー・スナッチャー】。

自らの戦闘データを完全にコピーし、思考の癖まで知り尽くした「もう一人の自分」を相手に、風月は命がけのバグ(不具合)を仕掛けます。

飼い犬であることをやめた二人の、泥臭くもスタイリッシュな反撃の第一歩をどうぞお楽しみください!

 数日後。

 風月と火楽は、都内の巨大ホールで開催された「ナイトメア症候群・対策特別式典」の壇上に立たされていた。

 眩いスポットライト。降り注ぐ割れんばかりの拍手。

 司会者が、彼らを「絶望の淵から人々を救い出す光の騎士」と、耳が腐るような美辞麗句で紹介する。

「……反吐が出るわね」

 火楽が、観客には見えない角度で口端を歪めた。

 彼女の頬の傷は、高度な再生医療で跡形もなく消されている。だが、神の雷に焼かれた精神の火傷は、今も疼き続けていた。

 隣に立つ風月は、ただ石像のように無表情だった。

 彼の視線の先には、少年の命を「処理」した白衣の男たちが、最前列で満足げに頷いている姿があった。

 この式典は、人々の不安を抑え込むためのプロパガンダに過ぎない。

 救えなかった命は統計から抹消され、ダイバーの戦いだけがスタイリッシュに編集され、娯楽として消費される。

「武見ダイバー、一言お願いします」

 マイクを向けられた風月は、数秒の沈黙の後、低く、冷徹な声で応えた。

「……夢から覚める覚悟がないなら、安らかな死を待つことだ。俺たちが斬るのは悪夢であって、お前たちの弱さじゃない」

 会場が凍りつく。

 司会者が慌ててフォローを入れる中、風月は勝手に壇上を降りた。

 八咫烏の紋章が、スーツを脱いだ生身の皮膚の上で、警告するように熱を帯びていた。

 式典の夜。

 風月は、本部ビル32階にある「中央資料室」のハッチの前にいた。

 通常、ダイバーへのアクセス権限は戦闘記録のみに限定されているが、彼は昼間のうちに、負傷したふりをして警備員のIDチップを複製していた。

「……入るぞ、八咫烏」

 指先をかざすと、不可視の電磁波がセキュリティを中和する。バクのスーツとリンクした彼の神経系は、電子の海をも泳ぐことができた。

 無機質なラックが並ぶ室内。風月は端末を操作し、一年前の「隕石事故」の未公開ログを呼び出した。

 画面に映し出されたのは、隕石の成分分析結果。

 そこには、地球上の物質とは明らかに異なる、細胞のような構造を持つ「種子」のデータが記されていた。

『プロジェクト・ネクスト。……対象は都内全域の精神体。……適合率の高い個体を「検体」とし、人為的にナイトメアを肥大化。そのエネルギーを回収し、次世代型兵器の動力源とする』

 風月の背筋に、冷たい氷の刃が突き立てられたような感覚が走った。

 ナイトメア症候群は、災害などではなかった。

 この国を統べる者たちが、自分たちの「力」を育てるために仕組んだ、大規模な養殖場。

「……見ちゃったわね、武見」

 背後で、重厚な金属音が響く。

 振り返ると、そこには火楽が立っていた。彼女の手には、すでに「血薔薇」のデバイスが握られている。

「火楽。……お前も、これを探しに?」

「そんな難しいことじゃないわ。……あの子が死んだあと、本部長の顔を見てたら、吐き気が止まらなかっただけよ」

 火楽の瞳には、かつての正義感ではなく、明確な「殺意」が宿っていた。

「組織を裏切れば、俺たちは『ドリームダイバー』ではなく、ただの『異変体』として排除される。……戻れなくなるぞ」

「ふん。……あんな汚い連中に、ヒーローごっこを強要されるよりはマシよ」

 その時、ビル全体に緊急サイレンが鳴り響いた。

『第五患者、発生。場所、ドリームキャッチャー本部・収容施設内。……対象、特別研究員・佐伯。至急、近辺のダイバーは現場へ急行せよ』

 風月と火楽は顔を見合わせた。

 患者が、組織の内部から出た。

「……佐伯って、確かあの子の『処理』を命じた男じゃない?」

「因果応報、か。……だが、嫌な予感がする」

 二人は資料室を飛び出し、収容フロアへと向かった。

 そこには、無残に破壊された強化ガラスの破片が散らばり、黒い粒子が吹雪のように舞っていた。

 中央でうずくまっているのは、昼間まで冷徹に指揮を執っていた佐伯研究員だ。

 彼の影が、異常な速さで膨張していく。

 影の中から現れたのは、鏡のような滑らかな皮膚を持つ、人型のナイトメア。

 ナイトメア――【鏡像の簒奪者ミラー・スナッチャー】。

 その顔面には目も鼻もなく、ただ周囲の風景を映し出す「鏡」が張り付いている。

「ガ……ア……助け……。……俺が……俺に……」

 佐伯が自分の喉を掻きむしる。

 鏡のナイトメアが、佐伯の喉に手を突っ込み、その「声」を物理的に引きずり出した。

「……ダイブするぞ、火楽。ここで奴を仕留めないと、組織の連中に『証拠』を隠滅される」

「ええ! ……やってやりましょう。本物の『悪夢』がどっちか、教えてあげるわ!」

「漠着!」

 漆黒と鮮血の閃光が弾け、二人のダイバーは、嘘と虚飾にまみれた研究員の精神世界へと突入した。

ダイブした先に広がっていたのは、上下左右の概念が消失した「万華鏡の迷宮」だった。

視界のすべてが鈍い光を放つ鏡の破片で構成され、風月と火楽の姿が無数に反射し、歪み、増殖している。

「……気持ち悪い場所ね。どこを見ても自分の顔ばっかり」

火楽が忌々しそうに吐き捨てる。彼女が振るった「血薔薇」の熱線が鏡の一枚を焼き砕くが、砕けた破片は瞬時に再生し、さらに複雑な反射を生み出すだけだった。

「警戒しろ、火楽。ここは佐伯の『自己愛』と『猜疑心』が作り出した牢獄だ」

風月が八咫烏の紋章を輝かせ、実体を探る。

その時、正面の巨大な鏡の中から、音もなく「それ」が這い出してきた。

ナイトメア――【鏡像の簒奪者ミラー・スナッチャー】。

それは、佐伯の姿をしていなかった。

鏡張りの顔面に映し出されたのは、漆黒の外装を纏った――武見風月自身の姿だった。

「……俺の姿をコピーしたか」

『コピー……? 違う。俺こそが……真実の、武見風月だ……』

鏡のナイトメアが、風月と全く同じ声で囁く。

その手には、黒い雷を纏った【イカズチ】さえもが再現されていた。

「ふざけないで! あんたみたいな偽物、私が焼き払ってあげるわ!」

火楽が叫び、鞭を蛇のように走らせる。

だが、ナイトメアは風月と寸分違わぬ流麗な機動でそれを回避し、背中の刀を抜いた。

「――『雷霆』」

ナイトメアが放った黒い電光が、火楽の足元を爆破する。

「なっ……出力まで同じなの!?」

「いや、違う。奴は佐伯が分析した『俺の戦闘データ』をそのまま出力しているだけだ」

風月が刀を抜き、偽物の刃と真っ向から切り結ぶ。

ガキン、という硬質な衝撃音が迷宮に木霊した。

力、速度、間合い。すべてが自分と同じ。鏡と戦っているかのような錯覚が、風月の神経を削っていく。

「組織は俺たちのすべてを記録していたというわけか。……スーツの限界も、思考の癖も」

『そうだ……。お前はただの……完成されたプログラムに過ぎない……』

偽物が冷たく笑い、刀を鞘に収める構えを取る。

風月の得意とする「九頭竜線」の予備動作だ。

「……プログラムなら、バグ(不具合)で壊れるのが道理だな」

風月は、八咫烏の紋章の出力を限界まで引き上げた。

だが、それは攻撃のためではない。

彼は自らのスーツの「安全装置リミッター」を、内側から物理的に破壊したのだ。

「武見!? あんた、何を……!」

火楽が目を見開く。

風月の右腕の装甲が、制御を失ったエネルギーによって赤黒く変色し、肉を焼く嫌な音がヘルメット越しに漏れ聞こえる。

「……データにある俺なら、ここで引くはずだ。だが……」

風月は、偽物の抜刀術を避けるどころか、自らその刃の軌道へと飛び込んだ。

鏡の刃が風月の左肩を深く切り裂く。

だが、その代償として、風月の右手が偽物の鏡の顔面を鷲掴みにした。

「計算外の痛みは……コピーできないだろ」

「――ガ、ガガ……!? ア……ッ!!」

風月の右拳から、属性を超えた純粋な精神エネルギーが、零距離でナイトメアの内部へと叩き込まれた。

鏡の顔面に、ヒビが入る。

そこから漏れ出したのは、佐伯がこれまで隠蔽してきた「実験失敗の記録」や「切り捨てたダイバーたちの遺言」……ドリームキャッチャーの汚濁そのものだった。

「火楽! 今だ、核を叩け!!」

「任せなさい!! これで……おしまいよ!!」

火楽が、全身のエネルギーを「血薔薇」の先端に集中させる。

鞭は一本の巨大な槍と化し、熱核爆発のような輝きを伴って、偽物の胸部を貫いた。

 パリィィィィン!!

 という鼓膜を引き裂くような音と共に、万華鏡の迷宮が砕け散った。

 佐伯の精神体は、自らの罪に押し潰されるように、無数の鏡の破片に呑み込まれて消えていった。

 現実世界への帰還。

 風月は、激痛に震える右腕を押さえながら床に膝をついた。

 処置室には、先ほどまでのスタッフの姿はない。

 代わりに、武装した「ドリームキャッチャー」の鎮圧部隊が、銃口をこちらに向けて包囲していた。

「……武見風月、里見火楽。君たちは、知りすぎた」

 奥から現れた本部長が、冷徹な笑みを浮かべる。

「佐伯のナイトメアは、君たちの『反逆の意志』を測るためのテストでもあった。……合格だよ。君たちは、我々の新兵器の『素体』として、これ以上ないほど素晴らしい絶望を見せてくれた」

「……新兵器……だと?」

 風月が顔を上げると、部屋の中央に置かれた巨大な円筒形のタンクが、不気味に脈動を始めた。

 その中には、これまで回収されたナイトメアの残滓を繋ぎ合わせた、異形の「人工神」が産声を上げようとしていた。

「英雄の時代は終わりだ。……これからは、我々が『神』を管理する時代が来る」

 風月は、血の混じった唾を吐き捨てた。

 八咫烏の紋章が、漆黒の闇の中で、静かに、しかし力強く再燃する。

「……勝手にやってろ。……俺はその『神』ごと、あんたの首をハネるだけだ」


第5章、最後までお読みいただきありがとうございました!

自分のコピーを「計算外の痛み」で突破する風月の執念、そして火楽の熱核爆発のような一撃、いかがでしたでしょうか。

しかし、敵の術策を破ったのも束の間、本部長から突きつけられたのは「新兵器・人工神」という名の、さらなる絶望のプロトタイプでした。完全に包囲された現実世界から、二人はどう生き延びるのか……。

次回、**第6章『傲慢なる者の終焉 ―叛逆の号砲―』**へと続きます!

ここからは本部ビルを舞台にした、息もつかせぬ怒涛のノンストップ脱出アクションが開幕します。

「風月の捨て身の戦術が熱かった!」「ここからの脱出劇が気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ下の**【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆評価】**で、組織に宣戦布告した二人へ力を貸してください!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ