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DREAM DIVE ERROR 漆黒のイカズチと血薔薇の戦姫  作者: 知恵利一
第2章:「漠着」―漆黒の執行者―
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第3章:傲慢なる者の終焉

第2章のケルベロス戦をご覧いただき、ありがとうございました!

第3章は、傲慢な不動産王・郷田の悪夢との完全決着から始まります。

執着と虚無が入り混じる黄金の摩天楼で、風月が放つ最大出力の一閃をお見逃しなく。

そして、悪夢を切り裂いた二人の前に突きつけられる、現実世界の冷酷な「真実」。

組織の本当の目的、そして次なる犠牲者である少年・音無光の登場により、物語は加速していきます。

 郷田笑弊の精神世界。

 ダイブした風月と火楽が目にしたのは、現実の物理法則を嘲笑うかのような「黄金の摩天楼」だった。

 地面は一面の金貨で埋め尽くされている。だが、その一枚一枚をよく見れば、すべてが苦悶の表情を浮かべる人間の顔が刻印されていた。

「……趣味が悪いどころの話じゃないわね」

 火楽が嫌悪感を露わにする。彼女の「バク」の赤い装甲が、黄金の反射を受けてどす黒く輝いた。

 風月は無言で周囲を警戒する。

 この空間には、郷田が踏み台にしてきた数多の人間の怨念が、粒子の密度を極限まで高めて漂っている。吸い込めば、ダイバーの脳に直接「死ね」という声が雪崩れ込んでくる。

「風月、見て。あそこ……」

 摩天楼の頂上。

 そこには、巨大な玉座に座り、自らの指を貪り食う郷田の精神体があった。

 彼は狂ったように笑いながら、周囲に溢れる金貨を喉に詰め込んでいる。

「もっとだ……もっとよこせ……俺の、俺の物だ……!」

 その背後から、巨大な「影」が立ち上がった。

 ボロ布のような漆黒の外套を纏い、身の丈を優に超える巨大な鎌を手にした死神。

 ナイトメア――【強欲の葬列アヴァリス・レクイエム】。

 死神の顔があるべき場所には、壊れた時計の文字盤が埋め込まれており、針が猛スピードで逆回転している。郷田が最も恐れるもの――「費やした時間の喪失」と「死による所有権の消滅」が具現化した姿だ。

「……来るぞ」

 風月が低く構える。

 死神が鎌を横一文字に振るった。

 刹那、空間そのものが「切断」された。

 金貨の地面が物理的な断層となって裂け、風月たちの足場が崩落する。

「きゃあっ!?」

「火楽、空中機動エア・スライドを使え!」

 風月は落下しながら、装甲の各所から高圧の青い雷を噴射した。

 八咫烏の紋章が激しく明滅し、彼を漆黒の弾丸へと変える。

 空中を蹴り、瓦礫を足場にして死神の懐へと肉薄する。

 チャキ、という硬質な音が、死神の骨が鳴る音と重なった。

 風月の日本刀が死神の首を狙う。

 だが、死神の時計の針がピタリと止まった瞬間、風月の動きが「停滞」した。

「……っ、時間の干渉か!?」

死神の断罪

「アガガ、ガガガ……オ前ノ……時間モ……俺ノ……財産ダ……!」

 郷田の声が混じる死神が、動きの止まった風月に向けて鎌を振り下ろす。

 絶体絶命。

 だが、その刃が風月の首を刈り取る寸前、真横から一本の「線」が走り抜けた。

「あんたの時間は、あんただけのものじゃないのよ!」

 火楽のブレードウィップ「血薔薇」が、死神の腕に絡みつく。

 超高温の鞭が死神の外套を焼き、強引に軌道を逸らした。

「風月、ボサッとしないで!」

 拘束から解き放たれた風月は、空中で一回転し、死神の胸部にある時計の文字盤を蹴りつけた。

 金属の砕ける鈍い音。

「……火楽、助かった」

「お礼なら、後で高いスイーツでも奢ってもらうわよ!」

 二人は空中で背中合わせになる。

 周囲からは、郷田に切り捨てられた者たちの幽霊が、無数の白い手となって地面から這い出してきた。

 幽霊たちがダイバーの足首を掴み、奈落へと引きずり込もうとする。

「……数が多い。これまでの患者とは、悪意の『量』が違うな」

 風月は、背中の日本刀を静かに鞘へ戻した。

 代わりに、右手に宿る雷のエネルギーを凝縮させる。

「火楽、広域殲滅を。……奴の『文字盤』を露出させろ。トドメは俺が刺す」

「了解! ……血薔薇・肆式ししき――【紅蓮華葬ぐれんげそう】!!」

 火楽が鞭を地面に叩きつけると、黄金の地面から巨大なバラの蕾が幾つも噴出した。

 蕾が弾けると同時に、全方位へ向けて超高温の火炎放射が撒き散らされる。

 無数の幽霊たちが、断末魔の叫びを上げる間もなく光の中に溶けて消えていく。

 爆炎に巻かれ、死神の外套が剥がれ落ちた。

 露わになったのは、歯車と腐肉が複雑に絡み合った、機械的な怪物としての真実の姿。

「……今だ」

 風月の手が、再び刀の柄にかかる。

「【イカズチ】……抜刀」

 青白い稲妻が、黄金の世界を真っ白な「虚無」へと塗り替えていく。

黄金の空が、風月の放つ青白い放電によってひび割れていく。

 ハイパーブレード【イカズチ】の刀身は、今や純粋な破壊エネルギーの塊となり、風月の持つ装甲の右腕に過剰な負荷オーバーロードをかけていた。

「ガ、ガァ……俺の……俺の金……俺の、命ィィ!!」

 死神の文字盤に埋まった郷田の顔が、醜く歪み、絶叫する。

 死神は巨大な鎌を頭上で旋回させ、周囲の金貨を磁石のように吸い寄せ始めた。集まった金貨は巨大な防壁となり、風月の進路を阻む。

「無駄だ。……執着ごと、斬る」

 風月は地を蹴った。

 八咫烏の紋章から噴き出したエネルギーが、彼の背後に黒い翼のような残像を描く。

 一閃。

 金貨の壁が、雷光によって分子レベルで分解され、光の塵となって霧散した。

 風月の視界に、剥き出しになった死神の心臓――「逆回転する黄金の時計」が映る。

「イカズチ……真理フルバースト!!」

 風月は、心臓の鼓動を止めるほどの超速で、死神の胴体を駆け抜けた。

 刹那。

 空間が静止したかのような錯覚。

 次の瞬間、死神の巨大な身体から、数十本の青い雷柱が内側を突き破って噴出した。

 時計の歯車が噛み合い、そして凄まじい音を立てて粉砕される。

「ア……ガ……アアアアァァァッ!!」

 郷田の断末魔が黄金の摩天楼に反響し、高くそびえ立っていたビル群が根元から崩落していく。

 風月は静かに着地し、背後で爆散する悪夢の残滓を一度も振り返ることなく、刀を鞘に納めた。

「……終わったな」

 横に並んだ火楽が、荒い息をつきながら装甲を解く。

 崩れ去る黄金の世界の果てで、郷田の精神体は、ただの「抜け殻」のように地面に転がっていた。

 その顔に、かつての傲慢さは微塵も残っていない。ただ、深い虚無だけが瞳に宿っていた。

深淵を覗く者

 現実への帰還。

 風月は、肺に残る「悪夢の煤」を吐き出すように深く呼吸した。

 だが、現実は夢よりも冷酷だった。

「……郷田はどうなった」

 除染ケージから出た風月が、白衣のスタッフに問いかける。

 スタッフはタブレットから目を離さず、無機質に答えた。

「脳死状態です。ナイトメアの駆逐には成功しましたが、精神的ショックに脳が耐えきれなかった。……予定通りの結果ですよ」

「予定通り……?」

 火楽が声を荒らげる。

「私たちは人を助けるためにダイブしてるのよ! 脳死させるのが目的じゃないわ!」

「里見ダイバー、声を下げてください。我々の目的は【ナイトメア】の駆逐と、そのサンプルの回収です。患者の予後は次次的な問題に過ぎません」

 スタッフは冷淡に告げると、重厚なセキュリティドアの向こうへ消えていった。

 風月は、八咫烏の紋章が刻まれた自分の左手を見つめる。

 このスーツ「バク」は、悪夢を食うために作られた。

 だが、食っているのはナイトメアだけなのだろうか。

 自分たちの人間性や、患者の魂さえも、このシステムに取り込まれているのではないか。

「……火楽。この組織、何かがおかしい」

 風月の低い声に、火楽は反論しなかった。

 二人の間に、重苦しい沈黙が流れる。

 その沈黙を切り裂くように、コントロールルームの警報が鳴り響いた。

「緊急事態! 第四患者・音無光、容体急変! 粒子濃度、過去最高数値を記録!」

 モニターに映し出されたのは、まだ十代前半の、覇気のない少年。

 だが、その背後に渦巻く影は、これまでのどのナイトメアよりも「神聖」で、そして「絶望的」な光を放っていた。

 音無光おとなしひかる

 彼は「宗教二世」だった。

 熱心な信者である両親によって、彼は自分の意志を奪われ、神に捧げる「生贄」として育てられた。

 彼にとっての日常は、神という名の巨大な暴力に支配された監獄だった。

「救いなど……ないんだ……」

 病室のベッドの上で、少年は呟く。

 彼の目からは、涙ではなく、黄金色の液体が流れ落ちていた。

 粒子が、彼の体内で異常な進化を遂げている。

「武見、里見。直ちにダイブを開始しろ。……これは命令だ。最悪の場合、患者の生命維持を度外視しても構わない。その『神』を、確実に仕留めろ」

 本部長の声がインカムから響く。

 風月は、何も言わずに少年の額に手を置いた。

 ――手が、震えている。

 それは恐怖ではない。

 この少年の内側から溢れ出す、底なしの「哀しみ」に触れたからだ。

「……火楽、行くぞ」

「ええ。……神様だか何だか知らないけど、子供を泣かせる奴は、私が焼き尽くしてやるわ」

「漠着!」

 二人は、光り輝く絶望の深淵へと、その身を投げた。


郷田を脳死に追い込んでもなお「予定通り」と言い放つドリームキャッチャー。風月と火楽が組織の歪さに気づき、怒りを燃やす姿に書いていて熱が入りました。

そして最後に登場した第四の患者、音無光。

宗教二世として育てられ、心を縛られ続けた彼の背後に蠢くのは、これまでのナイトメアを凌駕する『神』の影――。

次回、**第4章『生贄の少年の祈り』**へ突入します。子供の涙を踏みにじる「神様」を、風月たちがどう切り裂くのか、ぜひ見届けてください!

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