第六話「初めての格付け」
第六話「初めての格付け」
エリアの馬車を王都の手前まで送り届けたのは、翌日の夕方だった。
王都の巨大な外壁が見えてきた頃、馬車の窓が開いた。
「アレク、ここまでよ」
「お役に立てたなら良かったです」
「立てたわよ。十分に」
エリアは少しだけ言葉を探すように間を置いた。
「……王都に来る機会があったら、アシュレイン家の屋敷を訪ねなさい。門番に名前を言えば通してあげるから」
「ご厚意はありがたいですが」
「いいから。来なさい」
有無を言わせない口調だった。
馬車はそのまま王都の門へと進み、やがて人波の中へ消えていった。
ベルタへの帰り道を歩きながら、僕は少し考える。
エリア=アシュレイン。
辺境伯家の令嬢。
貴族らしい気取りがなく、言いたいことをそのまま言う。
でも、その言葉の端々にはきちんと相手への気遣いがある。
招待を受けるかどうかは、まだわからない。
ただ――
悪い気はしなかった。
ベルタに戻ると、ギルドが騒がしかった。
入口の外まで声が漏れている。
「Cランクだと? 昨日登録したばかりの小僧が?」
「ドガンさん、いくらなんでも無茶じゃないですか」
カウンター前に三人の男が立っていた。
全員、重装備。
胸には Bランクの証章。
ドガンが腕を組んで対峙している。
「文句があるなら実力で示せと言っている。それだけだ」
「昨日登録のFランクがいきなりCランクなんて、他のCランクへの侮辱ですよ」
「昨日、炎翼狼を二十七頭仕留めた。それで不満か」
「セラさんが仕留めたんじゃないんですか?」
その時、ドガンの視線が入口に向いた。
「おう、戻ったか」
三人が振り向いた。
一番体格のいい男が僕を見て鼻で笑う。
「これか。子どもじゃないか」
「アレクといいます」
「俺はダンク。Bランク歴三年だ」
ダンクが一歩前に出た。
「聞きたいことがある。昨日の炎翼狼、本当にお前が仕留めたのか」
「セラさんと二人で、はい」
「主力はセラさんだろ」
「そういう見方もできます」
「正直なやつだな」
ダンクは笑った。
「じゃあ聞くが、Cランクに相応しい実力があると思うか?」
少し考えた。
「わかりません」
「……は?」
「Cランクの基準を正確に把握していないので」
ダンクが眉を上げた。
「正直なのか、それとも馬鹿なのか」
「どちらかは自分では判断できません」
後ろの男が吹き出した。
ダンクは一瞬言葉を失ったが、すぐに言った。
「いいだろう。実力を見せてもらおう」
「模擬戦だ。俺たち三人と、お前一人」
「文句はないな?」
「断っても終わらないでしょう」
「賢いな」
「やりましょう」
ギルド裏の訓練場。
冒険者たちが輪を作って見物している。
セラもいた。
壁に背を預け、腕を組んでいる。
ドガンが中央に立った。
「ルールを言う。魔法あり、武器あり。降参か気絶で決着。死人は出すな」
ダンクが剣を抜いた。
もう一人は剣士。
もう一人は後衛の魔法使い。
三対一。
普通なら、勝負にならない。
でも――
僕の体の中には、今まで吸収した魔法がある。
炎。
音波。
雷。
火球。
電撃。
六種類の魔法。
「始め」
魔法使いが詠唱を開始。
三人の連携は洗練されていた。
後衛が牽制。
前衛が挟み込む。
Bランクらしい動き。
火球が飛んできた。
吸収する。
ダンクが右から斬り込む。
もう一人が左から。
右へ踏み込み、ダンクの剣を受け流す。
体を回転。
隙間に入り込む。
短剣の柄で左の剣士の手首を打つ。
剣が落ちた。
後ろへ飛び、距離を取る。
わずか三秒の交差。
左の剣士は手首を押さえている。
ダンクが構え直した。
「……速いな」
「ありがとうございます」
「褒めてない」
「そうでしたか」
ダンクが踏み込む。
今度は本気だ。
剣が重い。
一撃受けて、五歩吹き飛ばされた。
腕が痺れる。
力では劣る。
でも――
魔法は効かない。
右手に魔力を集める。
炎が収束する。
「……魔法を使えるのか」
「少しだけ」
火球を放つ。
爆炎。
ダンクが後ろへ飛ぶ。
その瞬間。
後衛の魔法使いが水刃を放った。
直撃。
吸収。
切れない。
僕は走り込む。
魔法使いの首筋に短剣を止めた。
「参りました」
振り向くと、ダンクが剣を下ろしていた。
「……降参だ」
広場が静まり返った。
誰かが口笛を吹く。
ざわめきが広がる。
「Bランク三人を一人で……」
「魔法まで使えるのか……」
ドガンが前に出た。
「決着。アレクの勝ち」
ギルドに戻ると、セラが隣に立った。
「やるじゃないか」
「運が良かっただけです」
「謙遜するな」
セラが腕を組む。
「ダンクは口は悪いが実力は本物だ。そのダンクを止めた」
「……本当に昨日登録したのか?」
「はい」
「信じられん」
そこへドガンが来た。
「アレク」
「はい」
「ランクをもう一つ上げる」
「今日付けでBランクだ」
周囲がどよめいた。
ドガンはそれを無視した。
「一つ聞く」
「お前の力、どこまで伸びる」
正直に答えた。
「わかりません」
「まだ試したことがないので」
ドガンは少し僕を見た。
そして頷いた。
「……そうか」
そのまま奥へ戻っていった。
セラが小さく笑う。
「ドガンがあんな顔するの久しぶりだ」
「どんな顔ですか」
「期待してる顔だよ」
「本物を見たときだけする顔だ」
僕は手のひらを見る。
さっきの戦闘で吸収した水魔法の構造が、体の奥に刻まれている。
まだ足りない。
でも確実に増えている。
「セラさん」
「なんだ」
「もう少し、ここに世話になります」
「ドガンに言え」
「セラさんにも」
セラは少し目を細めた。
そして顔を逸らした。
「……勝手にしろ」
夕日が広場を橙色に染めていた。
Bランク。
登録から二日で。
普通ではないことはわかっている。
それでも――
僕にはまだ、遠い場所がある。
ゼロから始まった力は、ようやく輪郭が見え始めただけだ。
上を向いて、歩く。
それだけだ。
(第七話へつづく――
「Sランク昇格試験」)




