第二十二話「集結」
第二十二話「集結」
地下から戻ると、神殿の空気が変わっていた。
古代文字が宙に浮かび、淡い光が渦を巻いている。
その中心に、ゼクスがいた。
膝をつき、呼吸を乱しながらも逃げていない。
ライラが術式を進めている証だ。
「顔が青い」
シアが言った。
「少し無理をしました」
「“少し”ではないだろう」
「立てます」
「支えられている時点で立っていない」
セラが「今は黙れ」と言うと、珍しくシアは従った。
ライラの術式が完成に近づくにつれ、ゼクスの体から“何か”が剥がれていく。
「……軽い」
ゼクスが呟いた。
「千年ぶりだ」
声が震えている。
「神の声が消えた」
「完全に解放されました」とライラが言った。
「ただし、不老不死は消えます」
「構わない」
即答だった。
「千年生きた。それで十分だ」
ゼクスは立ち上がった。
もう“代理人”ではない。
一人の人間だった。
「これを渡す」
水晶を差し出す。
「ヴェインの魂だ」
ライラの指が止まる。
「解放するかどうかは、お前が決めろ」
ライラは長く目を閉じた。
「……解放します」
水晶が砕けた。
白い光が満ちる。
そして――声。
「ライラ」
千年ぶりの声だった。
ライラは動けなかった。
「……ヴェイン様」
「よく生きたな」
「私は何もできませんでした」
「違う」
声は穏やかだった。
「お前は生きた。それで十分だ」
沈黙。
ただ、それだけで世界が静かになった。
「続きを頼む」
ヴェインの声が言った。
「一人でやるな。千年前の俺と同じ失敗をするな」
「一人ではありません」
僕は言った。
「俺たちがいます」
声が少し笑った。
「なら大丈夫だ」
光が消えた。
それが、別れだった。
静寂の中で、ゼクスが膝をついた。
「終わったな」
「終わっていません」
ライラは涙を拭かないまま言った。
「ここからです」
そのときだった。
空が揺れた。
月が歪む。
亀裂が入る。
声が落ちてきた。
「アレク=クロウ」
世界そのものが名前を呼んだ。
「はい」
「儀式は止まったか」
「止めました」
「ヴェインは解放されたか」
「しました」
「なぜだ」
「世界を守るためです」
沈黙。
「この世界は私のものだ」
声が言った。
「私が作り直す」
「違います」
僕は答えた。
「ここは、みんなのものです」
空の亀裂が広がる。
光が流れ込む。
世界の法則が“書き換えられようとしている”。
「消えるか」
「消えません」
吸収を始めた。
限界を超えて。
それでも立つ。
ゼクスが杖を握った。
「千年分、返す」
シアが剣を抜いた。
「帝国騎士団、前に出る」
セラが笑った。
「やっと本番だな」
ライラが言った。
「今度は、止めます」
僕は前を見た。
「さあ」
「始めましょう」
(第二十三話へつづく――「神の眷属」)




