第十七話「帝国の地下牢」
第十七話「帝国の地下牢」
世界が、白く弾けた。
――吸収。
そう思った瞬間には、もう遅かった。
桁が違う。
流れ込んでくる魔力が、多すぎる。
取り込む前に、押し潰される。
骨が軋む。
意識が削れる。
――無理だ。
初めて、そう思った。
「転移します。つかまって」
ライラの声。
腕を掴まれる。
そして――
世界が途切れた。
◇
目を開ける。
石の天井。
動けない。
動こうとすると、全身に痛みが走る。
魔力過負荷。
最悪の状態だ。
ゆっくり視線を動かす。
石の壁。
鉄格子。
――牢。
捕まったらしい。
腕と足には枷。
術式付き。
魔力が使えない。
吸収もできない。
「目が覚めたか」
隣から声。
老人。
白髪。
だが目だけが鋭い。
「貴方は」
「囚人だ。お前と同じだな」
余裕のある座り方。
慣れている。
「ここは?」
「神殿の地下。お前が来ようとしていた場所だ」
皮肉だ。
「仲間は?」
「逃げた。お前だけが残った」
ならいい。
それでいい。
◇
食事。
硬いパンと水。
味はない。
だが体には必要だ。
「なぜ捕まった」
「研究していたからだ」
老人は言う。
「神の魔力構造についてな」
興味が湧く。
「結論は?」
視線が刺さる。
「お前、何者だ」
「魔法を吸収できます」
一瞬の沈黙。
「……やはり出たか」
「やはり?」
「千年前の再現だ」
話が繋がる。
「ヴェイン=ゼロ」
「知っているか」
「はい」
老人が息を吐く。
「なら話は早い」
名を名乗った。
「ガイアスだ。元・帝国研究者」
◇
話は核心へ。
「神の魔力は無限だ」
「なぜ」
「世界と繋がっているからだ」
重い結論。
「世界そのものが供給源」
つまり――
神は枯れない。
「では倒せない?」
「普通はな」
指を二本立てる。
「方法は二つ」
一つ。
「器を壊す」
二つ。
「接続を断つ」
理解できる。
だが。
「後者は?」
「人間には不可能だ」
即答。
それでも。
「組み合わせれば?」
ガイアスが笑う。
「理論上はな」
可能性。
ゼロではない。
◇
三日。
情報を交換する。
体を回復させながら。
そして――
「分解できるか?」
ガイアスの問い。
「魔力を」
「構造レベルで」
考える。
「まだ完全では」
「やれ」
即答。
「できれば、別物になる」
新しい力。
一段上。
「外に出たら試します」
「出られるのか?」
「来ます」
「根拠は?」
「来ない理由がない」
ガイアスが笑う。
「信頼か」
「そうです」
◇
四日目。
音。
戦闘の気配。
鍵が回る。
扉が開く。
「遅くなった」
セラ。
それだけで十分だった。
「来ると思ってました」
「重い信頼だな」
枷を外す。
魔力が戻る。
それだけで、世界が変わる。
「行くぞ」
「一人追加です」
ガイアスを見る。
「重要人物です」
「了解だ」
迷いがない。
いい判断だ。
◇
外。
夜。
三つの月。
ライラとシアが待っていた。
一瞬。
ライラの目が揺れる。
「……無事で」
「はい」
「心配しました」
珍しい。
でも悪くない。
シアが近づく。
「動けるか」
「問題ありません」
「“多分”は禁止だ。後で確認しろ」
「了解です」
ガイアスを見る。
そして気づく。
「……ガイアス=オルドか」
「知っているか」
「伝説だ」
評価が一気に変わる。
◇
離脱。
野営。
焚き火。
全員が揃う。
それだけで、少し楽になる。
情報共有。
神。
接続。
器。
「順番が重要だな」
シアが言う。
「ゼクスを先に叩く」
同意。
「問題は場所だ」
ライラが答える。
「中央の廃都」
空気が変わる。
「千年前の最終地点」
つまり――
決戦の場所。
◇
食事。
静かな時間。
ガイアスの手が震えている。
シアが無言でパンを置く。
それだけで伝わる。
◇
夜。
焚き火。
「怖くなかったですか」
ライラの声。
「少しは」
「少しだけ?」
「来ると思っていたので」
沈黙。
「……同じことを繰り返した」
千年前。
今回。
悔い。
「違います」
はっきり言う。
「今回は来てくれた」
それが全て。
ライラが黙る。
「四日待ちましたけど」
「……当然です」
少しだけ、声が柔らかい。
「ありがとうございます」
「次はもっと早く行きます」
「期待してます」
火が揺れる。
音がする。
夜は深い。
でも。
全員いる。
それでいい。
今は、それでいい。
(第十八話へつづく――「地下牢脱出」)




